夕暮れ一目惚れ




「アイツやっぱり変だ!!」

そう叫んで学ランに身をまとった中学生男子5人が公園の出口に向かって走っていく


「ったく、世話の焼ける宿主だぜ」

同じく学ランに身をまとう白髪の少年が1人砂場に残った
ぐちゃぐちゃに崩れた砂の城を上から踏みつける

チャリン、と胸元にある大きなペンダントが揺れた

1人でこんなことしてるから絡まれんだよ
それに何で言い返さない
イライラしてしょうがねぇ

「久しぶりに表に出てこれたことだし、少し楽しませてもらおうとするか」

そう言って後ろを振り返った時

クゥーン・・

そんな鳴き声が下から聞こえてきた


「なんだコイツ」


一匹の子犬が足元に行儀よく座ってバクラを見上げている
茶色の毛をしたゴールデンレトリバーだ

人間に嫌われて動物には好かれんのかよ・・・

別に無視してその場を去っても良かったのだが、何故かそんな気にはならなかった

「おいおい、まだちいせぇのに迷子か?」

その場でしゃがみこみ子犬の頭をワシャワシャと撫でてやると、気持ちが良いのか尻尾を振る
水色の首輪がしてあるからやはり飼い犬なんだろう

こんなチビ放って飼い主はなしてやがるんだ

子犬はバクラの周りを落ち着きなく走り回り
その様子をバクラはただ見ていた

しばらく時間が経って公園から人気がなくなった頃


「やっと見つけたっ!」


そんな声が公園の出入り口から聞こえた
同じ歳くらいの少女が子犬を目にするなり急いで走ってくる
子犬のほうも、ワン!と小さいながらに吠えて少女の方へ走っていった


あの様子から見て飼い主か・・・


子犬が飼い主の元へ戻った様子を見てバクラも立ち上がり、帰ろうと背を向けた


「ありがとう・・・!」


声が背中にぶつかる
足が自然と止まった

ありがとうなんて・・・いつぶりだろうな


「オレは何もしてないぜ」

ボソッと呟いてから少しだけ振り返る

「それよりも、そいつ腹空かせてるぜ。ずっとオレ様の鞄を気にしてたからな」

「え!ごめんなさい!!」


ありがとうの次はごめんなさいかよ
フッと笑ってバクラは背を向けて歩き出す

「たいしたことねぇよ。それより早く帰って飯食わせろよ」


少し間を置いてからまた「ありがとう」と聞こえた
聞きなれない言葉はなんだか痒い














学校帰りに公園とか・・・あれ以来か

途中にあるコンビニで買った肉まんを食べながらベンチで人を待つ

人気は次第に少なくなっていった


「お待たせ!」


突然後ろから息を切らせた声がした
その後からワン!という犬の声

茶色のゴールデンレトリバー・・・


「えへへ、バクラくんと会わせたかったんだー」

「なまえ、犬飼ってたのか」

「あれ、言ってなかったっけ?」


そう言いながらなまえはベンチに座り犬の頭をなでる


「名前なんて言うんだ?」

「そら!私、空が好きだからさ」

そう言って太陽が沈んでいく夕日を眺める

「そら、か」


頭にそっと触れると、そらは嬉しそうな表情を浮かべてバクラに飛びついた


「おいっ・・・!元気ありすぎんだろ」


流石のオレ様もゴールデンレトリバーの成犬となれば支えるのが大変で、なまえが急いで落ち着かせた


「ごめんね!でも、そらが他人に懐くなんて珍しいな」

「?こんなに飛びついてきたのにか?」


制服についた足跡を手ではらいながらそらに視線を向ける
しっぽを大きく振ってワン!とひと鳴きした
とてもそんな風には見えない


「2年前・・・中学生の時にね」


なまえは呟くように口を開いた


「そらを連れてこの辺りを散歩してたんだけど、途中でクラスの子に囲まれちゃって」

「囲まれた?」

「そらって臆病な子なの。なのに色んな子に四方八方から触られて、それから親しい人意外は警戒しちゃって」


そらはなまえの足元で伏せてジッと周りを見ている


「バクラくんは好きな人っている?」

「ハッ!?」


突然の質問にバクラは驚いてなまえの方を見た
なまえはそらの方を向いたまま微笑んでいる


「そんなの・・・いねぇよ。そう言うなまえはどうなんだよ」

「私はいるよ」


軽く聞いたつもりが、いざその答えを耳にした瞬間
胸がズキリ痛んだ

昔からの長い付き合いなわけでもねぇ
ただ転校した学校で同じクラスになって向こうから近寄ってきたから
一緒にいる時間が増えていっただけ
なんとなく一緒にいただけだ

だが、この感情は一体なんなんだ


「囲まれた時に、そらが興奮して逃げ出しちゃってこの辺の住宅街をずっと探し回ってた」


なまえが喋り始めて
気づいたら公園には誰もいなくなっていた
夕日が沈みかけて、オレンジ色と青色が混ざって薄暗い


「途中でこの公園に来てみたら同じ歳くらいの男の子と一緒にそらがいるの」


オレ様の脳裏にあの時の記憶が蘇る


「その時もそらが男の子に懐いてるの見て驚いちゃって。そんな事思ってたら男の子が帰っちゃいそうだったから私言ったんだ」


迷子のゴールデンレトリバー


「“ありがとう”って」


シンクロする
懐かしい響き


「そしたら、“オレは何もしてない。それよりもご飯食べさせてやれ”って・・・それで男の子は帰っちゃってそれ以来会ってないんだけどさ」


チラリと横目でなまえを見ると相変わらずそらの方を見ていた。
どんな表情をしているかはよく見えない
けど、自然と喉がゴクリと鳴った


「なまえの好きな人って」

「うん。一目惚れかなぁ・・・たったあれだけのやり取りなのに惹かれちゃったんだ」


やっぱり飼い主とペットって似るのかなぁ

なんて言って振り向いたなまえの顔は見れなかった
見れるはずがねぇ

反射的に顔をそらしてバクラはベンチから立ち上がる


「バクラくん?」

「もう暗くなるだろ。オレ様は帰るぜ」

「う、うん・・・そら、行くよ」



太陽が沈んでくれて良かった
ズキズキと、さっき感じた痛みとはまた違う痛みが胸を打つ






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