お菓子よりも甘いもの



お日様がオレンジ色に変わる頃。
童実野高校の教室では、授業中。
真面目に授業を受けている生徒や授業なんて上の空な生徒に混じり、私の右隣の席の奴は、頬杖をついて黒板を見ている。
一見授業を聞いている様に見えるが、実際はどうなのやら・・・

本来は彼の本当の姿である獏良了くんが授業を受けているはずなのだが
今日は具合が悪いらしく、変わりに裏の人格であるバクラが変わりに授業を受けている。
同じ身体だから、バクラに人格が変わろうと具合が悪いことには変わらないと思うのだが
不思議な事に、ケロッとした顔で過ごしているのが不思議でたまらなく怖い。

私がノートを書いている時だった。
視界にノートの切れ端だろう紙が机の上に転がってきた。
適当に破られ半分に折られた紙をぺラリと広げる。



――放課後つきあえ



この1文だけ書かれていた。
チラッと横を見るが、バクラの視線はさっきと変わらず黒板の方へ向けられていた。


長い1日に授業も全て終え放課後になった。
私が荷物をまとめていると、さっさと帰る仕度が終わったバクラが立ち上がり一言。

「早くしないと置いてくぞ」

と言って教室を出て行く。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

急いで鞄に教科書などを詰め込み立ち上がる。

「なんだーなまえ。今日は獏良と帰るのか?」

様子を見ていた城之内くんがからかいの目をして言ってきたが、そんな事に構っている暇などなかった。

「うん!悪いけど急いでるの!!また明日ね!!」

「そ、そうか。ちぇ・・・つまんねー」

なんて声が聞こえたけど構わず教室を出た。



廊下を先生に見つからない程度に走りバクラに追いついたのは玄関だった。
トントンと靴を履き替え、追いついて息を切らしている私を見て一言。

「置いてくわけねぇだろバーカ」

「なっ!バカは余計!!」


ヒャハハと笑いながら「ほら、早く行くぞ」というバクラにそれ以上なにも言葉はでなかった。






学校の校門を出て、いつも通りの帰り道。
普段は獏良くんが表に出ているから、バクラとこうして一緒に学校から帰るというのは実際初めてだった。
意地悪なくせに表に出てくることはほとんどなく、
出てきたとしても獏良くんと装って過ごしているのだが、それが誰にもバレないのだから大した演技力だとつくづく思う。

今日は獏良くんが体調崩して身体使い放題だし、暇つぶしにでもと誘ってきたのだろうと思っていた時。

「なまえ、シュークリーム作れたよな?」

唐突に出てきた思いもよらなかった言葉。

「・・・うん・・作れるけど?」

「シュークリーム作ってくれねぇか?」


視線を横に向けて、頬をかきながら言うバクラ。
そんな恥ずかしいそうに言うことではないと思うのだけど
バクラから頼み事なんて珍しい事だ。
ここはウダウダ言わずに引き受けないと後が面倒だ。

「いいよ。けどなんでまた」

そう言うとバクラは面倒くさそうに前髪をかき上げながら

「宿主がシュークリーム食べたいって駄々こねてんだよ」


病人は大人しく寝てろっての、とブツブツ言ってるバクラを見てプッて笑ってしまう。
すると顔を少し赤くして「なに笑ってるんだよ」と私の両方のほっぺたをつねってきた。
それでも私はふざけて笑うものだから、拗ねてそっぽを向いてしまった。

「んじゃ材料はあるだろうから家行くか」

「揃ってるの!?」

「あぁ、宿主のやつ料理するからある程度は揃ってるんだよ」


さっさと行くぞと言いながら先にスタスタと歩いていくバクラの後を早足でついて行った。




マンションについて、私はシュークリームを作り。
バクラは制服からラフな普段着へと着替えソファでテレビを観ている。
それも面白くないのか頻繁にチャンネルを変えているばかりで全く観ているという感じはしない。

シューを焼いて、その間に中に入れるクリームを作っている時だった。
バクラがソファから立ち上がり「まだできないのか?」と言いながら私の横へ立った。
シャカシャカとクリームを混ぜている私の手元をジッと見る。
するとグ〜という低くなんとも間抜けな音が隣から聞こえてきた。

「つまみ食いは駄目だからね」

「わ、わかってるって。するわけねぇだろ」

本当かなぁ?と言っている間にもシューが焼きあがったようだ。
ふっくらと膨らみ良い匂いがオーブンを開くと同時に広がった。
しばらく余熱が残っているオーブンにシューを入れておき、クリームを作ってしまう。
クリームが出来たところでシューを取り出しクリームを絞り込んでいく。
ザッと12個分のシュークリームができあがった。

「おぉースゲェじゃん」

「それじゃ1つ」と手を延ばすバクラの手の甲をペシッと叩いた後、皿にのったシュークリームを取り上げた。

「何すんだよ」

「これは表の獏良くんの為に作ったシュークリームでしょ」

この言葉にバクラの眉間がピクッと動き皿を持つ私手を掴み、近くに引き寄せられる。
皿を持っている事もあり咄嗟の事に抵抗できず目の前にあるバクラから顔をそらした。

「へぇ・・・オレ様以外の男に手作りのお菓子ねぇ」

「オレ様以外って・・・バクラが作れって言ったんでしょ」

バクラの髪が顔のすぐ横で揺れる。
耳元で吐息がかかり、少し反応した私にフッと笑ってから一言。


「撤回。オレ様以外に渡すな」


つい顔を赤くしてしまった。
皿にのっているシュークリームを1つ手にとってバクラの口へと入れる。

「好きなだけ食べればいいでしょ」

シューからはみ出したクリームが口の周りにつき、それをぺロリとバクラが舌で舐めた。

「もう遅いから帰るね!」

だなんて無理やりな言い訳をつけてなまえはマンションをでる。
残されたのは面白そうにクスクス笑っているバクラと皿に山詰みになっているシュークリーム。

(甘ぇ・・・)




バクラが1人で12個も本当に食べるなんて無茶をするとは思っていなかったのだが
次の日風邪が治った獏良くんに

「あいつ何だか様子が変なんだよね。おかげで大人しくしてくれてるから良いけど」

なんて笑顔で言われた。


prev|top|next








「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -