原曲より幾分音調のずれた、陽気な鼻歌が耳に心地よかった。どこかで聞いたことのあるメロディだ。最近よくラジオで流れている話題の曲に違いない。音楽に興味はないが、通りを歩けばまず間違いなく、意識せずとも耳にする。成る程、ゴールドはこういうリズムが好きなのかと一人納得した。
互いに一糸纏っていない姿でベッドに転がっている姿は、端から見ればひどく間抜けで滑稽な図だろう。(上から一枚シーツは被っているが、)俺に背を向けてただ鼻歌だけを口ずさむゴールドの耳はまだ微かに熱を持っているようだった。情事後の気恥ずかしさに精一杯堪えるこいつは、やはり俺には絶対で唯一の存在で何とも言えないほどには、手離し難い存在だった。後ろから抱え込むように寄り添えばあからさまに肩を強張らせるゴールドが、それでも単純に愛おしい。

「変態。触るな」
「何もしてないだろ」
「うるせ」
「いい曲だな」
「ったりめえだ。つーか話逸らしてんじゃねえよ」
「歌詞、覚えてないのか?」

何気なく尋ねたつもりだったが、本人にしてみればどうやらそれは聞かれたくないことだったようで、返事もせずに口を閉ざしてしまった。静かに時間だけが流れる緩やかな空間に、安らぎさえ感じる。
もぞ、と腕の中のゴールドが動いた。寝返りをうっただけらしく、すでに夢の中に落ちてしまったゴールドの前髪を掬い上げる。向かい合う形になったゴールドの寝顔は年相応にあどけない。
不意にキスしてやりたくなったが、それはこいつが起きてからでも遅くはないと俺も瞼を下ろした。何となく頭に浮かんだ先ほどのメロディ。ゴールドの真似をして口ずさんで、そしてそこでようやく気付いた。
この曲が、最近流行りの『ラブソング』であることを。つまりは、そういうことだった。



∴鼻唄交じりのアイラブユー
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