古びた木製の階段を地上からひたすらのぼり続け、最上階にたどり着いた時にはすでに闇が近づいていた。きい、きい、と俺達が動くたびに音が鳴り、その消え入りそうな小ささとやけに耳につく高音に身震いする。近くにゴースがいるのかもしれない。案外、塔の中は寒かった。「怖いのか」、なんてシルバーが馬鹿にしたように笑ったから、俺は「んなわけねえだろ」と眉をひそめた。重要な文化財だからな、唾を吐きかけるのはやめておこう。
マダツボミの塔はずいぶんとめんどくさい造りをしている。早い話、天井にのぼるための階段も何もない。仕方ない。最終手段だ。視界に入った窓というには小さすぎて、格子というには些か脆すぎる、唯一空の見える穴のあいた壁を蹴飛ばした。思いっきり、力の限り蹴って、意外にも子供が通れるくらいの穴があいた。重要な文化財?いや、もういいやそれ。俺、知らね。

「派手にやったな」
「シルバー、お前も連帯責任だからな」
「わかっているさ」

ひゅう、と風の通り抜けるそこから、外に出て塔の屋根上に出た。良い子は真似したらいけない、なんてレベルじゃない。ビル五階分はあるその高さに、俺もさすがにびびった。ちょっとだけ、な。

「ゴールド」
「おう、サンキュ」

手を差し延べてくれたシルバーの手に掴まり、そのまま上に引き上げられる。細身のくせに無駄に筋力のあるこいつの腕が、不本意だが苦しいくらい好きだ。
繋いだ手はそのままにして、二人でキキョウの町を見下ろした。闇に呑まれていくその様子は、空が暗くなるのよりもずっと悲しく、だけど形容しがたい美しさがそこにはある。だけど俺達は大丈夫だと、漠然とそう感じた。何の根拠もないけれど、確かに確信している。俺とシルバーは、大丈夫。何からも呑まれたりはしない。

「今日、お前と二人でここに来れて良かったぜ」
「明日はクリスからのお説教だがな」
「ははっ、ちげえねえや!」

夕焼けがシルバーの横顔を照らし出す。なんてこたぁねえ。だって俺達は、こんなにも自由だ。



∴柵を解いた先
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