「笑ってください!」

開口一番、突拍子もなくそう大声を張り上げたエメラルドくんに、わけもわからず「へ?」と素っ頓狂な声をあげるしかなかったわけだけど、そんなことはおかまいなしに彼は「笑ってくれクリスタルさん!」と真顔で私に詰め寄った。肩を力強く掴まれて、目の前にはエメラルドくんの翡翠みたいに爛々とした大きくて丸い瞳。いいなあ、男の子なのに魅力的なまん丸な目。……って、そうじゃなくて。
反応する間もなく一気に詰められた距離に、為す術もなく全身の血流が突然速度をあげて巡り始めたみたい。心臓がばくばくして、顔が熱くなって、触れられている肩がどうしようもないくらい熱くなる。

「ち、近いわよエメラルドくん!」
「笑ってってば!」
「ちょ……っと!……急にどうしたの?エメラ、」
「わーらーえーーー!!」
「っストーーーップ!!」

いきなり何なのよ!と尚も私を揺さぶろうとするエメラルドくんを、言い方は悪いけれど無理やり引っぺがして一度彼を落ち着かせる。物事には順序ってものがあるんです。たまの再会でもまずは「こんにちは」で始まって、次は「久しぶり」でしょう?それを全部飛び越えて「笑え!」だなんて、まずはマナーを教え込まなきゃかしら。(エメラルドくんがそれを聞いてくれるとは到底思えないんだけどね。)とりあえずどうかしたの?って聞こうとして、やめた。口をへの字にきゅっと結んで、子犬みたいにしゅんとうなだれているエメラルドくんを見たら、説教する気も失せちゃった。泣きそうというよりは拗ねているみたい。眉間に二本寄せられた皺とそこから頼りなさげに垂れ下がった眉が、それを物語ってる。

「…エメラルドくん」
「………だってさぁ、」

渋々、半ば諦めたように言葉を紡ぎ出したエメラルドくんは、だけど視線だけは真っ直ぐ私を捉えたまま話すんだから、ずるい。

「……久しぶりだから」
「?」
「クリスタルさんと会うの、久しぶりだからさぁ、」
「それが一体……」
「だあぁーーーっ!もう!!俺すっごく会いたかったんだって!!クリスタルさんに!!!」
「…っ、な……!」
「一番最初にクリスタルさんの笑顔が、見たかっただけなんだよぉ」
「……は」

それだけ、だって。もっと深刻な理由でもあるのかと思ったのに、たったそれだけ。私の笑顔が見たいって、そのままの理由で、彼は。
言うだけ言ってバツが悪そうに俯いてしまったエメラルドくんの表情が、全然見えないはずなのに簡単に想像できて。それがなんだか可笑しくて。

「……ふ、ぁはははっ!」
「!」
「そ、それだけ!あははははっ!お腹いた〜…っ!」
「わ…笑うなーーーっ!!」
「もう、矛盾してるわよ……ふふ。本当、バカなんだから」

そう言ったら、「どうせならクリスタルさんバカになりたいじゃんか、」なんて似合いもしないくさい台詞を、似合わない神妙な表情で呟くから、思わず緩んだ口許をそのままに私は彼の小さな体に手を伸ばした。

「私も会いたかったに決まってるじゃない」



∴弱いんだって、その笑顔
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