※学パロ


別に、最初から意識してたわけじゃねえ。バスケ部が今日は職員会議だか何だかでたまたま休みで、それは陸上部所属のシルバーも同じで、だったらホームルームも終わったしとっとと帰るかって話になって。同じクラスで席が前後で、帰る方向が同じときた。そりゃそういう流れになんだろ。俺としてはものすっごく不本意だが妙にシルバーとはそりが合うっつうか、いや全く気は合わねえんだけど、とにかく学校で一緒に過ごす時間が他の奴等よりずっと長いこいつと一緒に下校するってのは、別に苦でも何でもなかった。寧ろ、お互い違う部活に入ってんだ。帰る時間帯ってのも自ずとずれちまうし、別にそれが残念ってわけでもねえけど、たまにはこんな日があってもいいかなって思ったりして。まあとにかく、だ。「行くぞ。」って玄関で靴を履いてスタスタと行っちまったシルバーを「待てよこの野郎!」って吠えて、靴の踵を踏んだまま追いかけて走る。そこでだった。ようやく俺がハッと、いつまでたっても気づかない馬鹿な俺の脳みそを、内側からどっかの賢者さんがこつんと杖で叩いたみたいに、唐突にそのことを思い出したのは。

シルバーと、二人きりで帰るの、はじめてじゃねえか。

ただそれだけのことだってのに、一度気づいちまったらなんとなくこっぱずかしくなって、思わず足の歩幅が狭くなる。早足のシルバーとは瞬く間に距離が開いて、それを訝しんであいつが振り向く前に俺は踏んだままだった靴をきちんと履き直した。くたくたになったスニーカーの、泥で黒ずんで紐を結び直して「よし!」と顔を上げたら、何事もなかったかのようにシルバーも歩き出したからきっとバレてねえはずだ。うん、絶対ェバレてねえ。
鞄を持ち直してシルバーの隣に戻ると、「靴ぐらい玄関で履いてこい、愚図。」って目も合わせずにいいやがるから、カチンときて「てめえが早ェんだよクソ野郎、ちょっとは協調性ってのを学べバーカ。」って返してやった。不愉快そうに切れ長の目を一層細めて眉根を寄せたシルバーちゃんの、くっそ忌々しげな視線ににやりと口角が上がる。ざまあみやがれ。


「減らず口が」
「明らかに喧嘩売ったのお前だろうがよ」
「ほう、買うのか?」
「まさか。顔に痣作ってクリスに怒鳴られんのはもう御免だっつーの」


頭の後ろで手を組んでそう苦々しくぼやいたら、それはシルバーも心当たりがあるみてえで、「一理あるな。」って苦虫を噛み潰したようなぎこちない苦笑を浮かべた。俺たち二人とも不良ってわけじゃねえけど、髪の色からか特にシルバーの野郎はよく派手な年上の野郎に目をつけられる。んで、その喧嘩に意気揚々と乗り込んで参戦する俺も、結果として目をつけられてしょっちゅう面倒ごとに巻き込まれるわけだ。(まあ、喧嘩したらうちのクソ真面目なクラス委員がうるせえから、俺らからは売らないで買うだけに甘んじてやってるけどさ。)
てゆーか、なんだ。俺全然普通に話せてるじゃん。そりゃそうだ、別にシルバーと二人きりとか学校じゃ仕事押し付けられた時とかよくあるし、飯食うときだって二人だし、放課後の帰り道っつう余計なオプションが付いただけでいつもとなーんにも変わったこたァねえ。ただのダチだし、つーか野郎同士で何緊張してたんだよ俺は。アホくさ。


「ゴールド」
「あ?」


名前を呼ばれて何だこいつ、まだたらたら嫌味でも垂らしやがんのか?って思ったらさりげなく手を引かれる。え、何これ。
シルバーが車道側で、俺が立ち並ぶ家々の塀側。入れ替わった瞬間に、反対側からやってきた一台の車が狭い路地を通り抜けて、俺たちのすぐ隣をすれ違っていきやがった。危ねえな、危なすぎだろ。何がって、ばか、俺の心臓がだよ!


「よ……」
「?」
「余計なことしてんじゃねえよ!恥ずかしい野郎だなてめえは!」
「俺の勝手だろうが」
「ふざけんなコンニャロウ!あんなん危なくも何ともねえよ!」
「どうだかな。少なくとも俺は、」
「ああ!?」
「危なっかしくて見ていられない」
「……な、なんだそりゃ」


シルバーはすぐに手を放して、「とっとと歩け。」って早口に言った。まだ長い付き合いとは言えねえが、だいぶこいつの考えてることがわかるようになったって今の今まで自負してたけど、どうやらそいつぁ考えを改めなきゃならねえらしい。さっぱりわかんねえ。(抱き締められんのかと思った……!)
不意打ちなんてあんまりだろ!さっき自分の中での葛藤にケリを着けたばっかだってのにいきなりあんな、てめえの女にするようなことされたらこっちが変な気分になんじゃねえか!勿論俺はギャルじゃねえし、ただ手を引かれて場所変わってもらって、そんな些細な優しさ程度じゃ満足しねえ。そのまま抱き締めてキスの一つや二つかまして、薄暗い裏路地とかに連れ込んだりとか、そういう強引さがねえとつまらねえと思うけど。……って、これじゃ俺がそれをシルバーに求めてるみてえで胸くそ悪くなった。同時に顔が馬鹿みたいに熱くなるのがわかって、ちくしょ。どうしたんだよ、俺!


「……ふん。そんな顔もするんだな、ゴールド」
「は、」
「気づいていないと思ったか?」


俺が。振り向きざまに俺の耳元でそう、低く掠れた声で囁きやがったこのクソむかつく赤毛のせいで、たぶん俺の寿命は数年分短くなっただろうさ。全身の熱が顔に全部集まってるんじゃないかってくらい熱くて、うわ、絶対真っ赤だ。しかも見られた、こいつに、シルバーに。
畜生、って半ば意地になって思いっきりシルバーの足を踏んづけてやる。顔色ひとつ変えずに、ただ限りなく優しさを孕んだその瞳を見た瞬間、俺はまたもや気づかされてしまった。ああもうくっそ、ふざけんな。

なんでこんな奴好きになってんの、俺。



∴それはまさに溺れ逝く前兆


狼様、相互ありがとうございました!
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