キスしたい、ってシルバーの野郎がまた突拍子もなく言いやがるから、一瞬動揺しちまったけどよ。ぶっちゃけ俺たちゃ二人きりになってそういう雰囲気になったら、必ずって言っていいくらいちゅーしてるし?つーか恋人なんだから当たり前だろそんくらい。場とモラルさえ弁えてりゃいいんだよ。(まず男同士ってとこでモラルがどうとか言ってらんねえけど、んなこたぁよくあるこった、気にすんな!)んで、しゃあねえから目ェ閉じてキス待ちしてやったっつうのに。無言。暫しの沈黙。自分から言っといてアクション無したぁ、ふざけてんのかこの野郎は。

「……おい!」
「なんだ」
「なんだ、じゃねえよ!するなら早くしろ!一丁前に焦らしてんじゃねえ!」
「俺はしないが」
「あぁ!?」
「お前がしろ」

とまあ随分上からな物言いで俺を真っ直ぐ見つめやがるこの野郎はマジで性格悪いと思う。ツラだけが人より悪かねえってとこも俺にとっちゃムカつく要素で、まあ嫌いじゃねえんだけど、いや待て話が逸れてる、落ち着けよ俺。は?俺からキスしろだぁ?

「お前がキスしたいって言ったんだろうが!」
「それがどうした」
「んなっ」

今度はそれがどうしたって、おま、うざさ臨界点突破だな!こいつ超殴りてえ!怒りに身を任せて「てめえ何様だコラ!」って睨み付けて胸ぐら掴みあげてもシルバーの野郎はまったく動じねえでじっと俺の目を射抜きやがるから、逆に俺の方が戸惑っちまってそれがすげえ癪だった。なんなんだってんだよ、こいつ。
確かにまあ付き合いはじめて数ヵ月、俺からこいつにキスしてやったこたぁねえ。嫌ってわけじゃねえし、つーか普通に仕掛ける前にシルバーが先手を打ちやがるから流れるだけで、俺だって何度か試みたことはある。だから嫌ってこたぁ全然ねえけど、だからってお前。そりゃ唐突すぎんじゃねえの。
俺の考えを見抜いてかは知らねえが、シルバーはとどめとばかりに「お前に、してほしい。」なんてほざきやがるから、畜生め。んな顔してそんなこと言われたら、やってやるしかねえじゃねえかクソッタレ。

「ったくよぉ、仕方ねえな」

渋々、あくまでも渋々といった風に、盛大なため息までつけて嫌味ったらしく言ってやったのに。シルバーは何も言わねえで、ただほんの少しだけ、いつもは不機嫌そうに引き結ばれてる口元を緩めやがった。反則だろ。
シルバーと向かい合って顔をちいっとばかし近づける。……やっぱ整った面してんな、とか。同じ十六歳なのにこいつは大人っぽい顔してやがる、とか。そんなこたぁ考えたりはしてねえ。絶対に。俺からするのは初めてだし、そりゃちょっとは緊張するけど。それだけだ、絶対。
あんまり時間をかけるとヘタレ扱いされそうだしとっとと済ませちまおう。それがいい。奴の肩に手を置いてもっと顔を近づけて。かちり、と目と目がかち合った。……おい。もしかしてこのままかよ!

「早く目ェ閉じやがれ!」
「何故だ」
「何故だじゃねえよ!言うこと聞けクソシルバー!」
「断る」
「あぁ!?」
「お前の顔が見えないと意味がない」

バカじゃねえの。言ってやりたいことは山ほど頭に浮かんだ。クソ野郎。俺のことそんなに好きなわけ。俺もだよふざけんな。結局言うこと聞いちまうんだから俺もまだまだ甘い。知ってたさ、んなこたぁ。
もうどうにでもなればいい。そうさ、たかがキスの一つだ。シルバーが目開けたままとか関係ねえ。ぶちゅーっと一発済ませちまえばそれでおしまい。なにもおかしいこたぁねえだろ、俺とシルバーはコイビトなんだから。いまさら緊張してんじゃねえよ、俺。

「……っ」

目をぎゅっと閉じて勢いよくキスしたら、軽く触れるくらいのを贈るつもりだったのに歯と歯がぶつかって、うわ、血の味だ。すぐに身を引いて見てみたらシルバーの唇も少し切れてて、でもそれにちょっとだけ独占欲みてえのが掻き立てられたあたり、俺はとことんこいつに弱かった。

「わ、わりぃ」
「ふん。下手くそ」

でもま、口元を手の甲で拭ったシルバーも何となく満足げだったから、きっとこれで良かったんだろうよ。「もっかいしてやろうか?」って聞いたら「二度と御免だ。」と俺の口を塞ぐ、こいつも結局のところ一緒だ。俺にどこまでも甘いったらありゃしねえ。いや、甘いのはこの空気か、それともシルバーの唇か。クサいって?はは、上等だよ。だって俺は、こいつの。



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