どうして、僕はこんなことをしているんだろう。
「あっ、は…っ!」
「……っ」
一体、どうして。そんなの知らない。知らないけど、もう今さら後には引けない。



ゴールドさんとの人には言えない関係を約束して、二週間後。ホウエンに一度は帰った僕だけど、それからゴールドさんに呼び出されて今度は一人でジョウトへと赴いた。名目はタマゴの観察の記録の手伝いだけれど、それだけではないということは連絡を受けたその日からわかってる。夕方、日が落ちる頃。案の定コガネの駅前で僕を待っていたゴールドさんはニヤニヤと笑って僕の手を引き、あらかじめ予約をしておいたごく普通のホテルへと足を運んだ。最初からそれが目的って。本当に、ゴールドさんは食えない人だ。

「いいんですか、そんなところでしても」
「しらね。片付けんの俺らじゃねえし」
「そのホテルの伝説になりますね」
「ラブホでもねえのに男二人セックスして散々シーツ乱したってか?はは、それ超笑える」
「笑えません」

それでも付いていってしまうこの足と好奇心が憎い。はあ、とため息をついたら、先を歩いていたゴールドさんが振り返って「俺らはたから見りゃ手繋いで歩いてるんだぜ?」って口の端を吊り上げたから、笑顔でその手を振り払ってやる。ゴールドさんは尚も口元を緩ませたままだ。
ホテルのチェックインも手続きもすべて手早くゴールドさんが済ませてくれた。さすがはお坊っちゃん。手慣れてるなあ。僕の思考を一瞬で読み取ったのか、ゴールドさんが「ボンボンさいこー」って、ははは、冷ややかな笑顔でここは冷静に返しておこう。

「でもここまで来たってこたァ嫌じゃねえんだろ?」
「偏見はないですから」
「お前も片足突っ込むんだしな、これから。あ、突っ込むのはちんこか」
「ちょっとゴールドさんその口閉じてください。品が無いのは嫌いなんです」
「ちぇっ。つっまんね」

何度も言うけど、僕は美しくないものは好きじゃない。(これからそういう行為をする僕に、そう主張する資格があるかどうかは別として。)そう考えると、僕はとことんゴールドさんと性格的な部分ではそりが合わないんじゃないかと思う。嫌いではないし、もちろん先輩としては好きな部類に入るけど、だとしたらどうして僕はこんな不毛な関係を築く気になったんだ。ただの興味?そうかもしれない。そうだけど――途中で、考えるのはやめた。どうせならもういっそ、それこそ本能のまま動いてしまおう。
上へと登るエレベーターから降りて、その先の通路の突き当たり。用意されていた部屋はそつない造りのシングルで、子供二人が寝るのには充分すぎるほどのベッドがその存在を主張している。思っていたより広い。こ洒落た物は置いていないけど、シンプルな内装で壁にちょっとした絵画なんかが飾ってある部屋自体には好感が持てた。

「おっ!けっこーデカイじゃんっ!」

部屋に入るなり目を爛々と輝かせて靴も脱がずにベッドに飛び乗るゴールドさんに、やっぱり僕はため息をひとつ。「まずは靴を脱いでください。」って強く言ったら、「わりいわりい!」ってけらけら笑って、その屈託の無さに僕は思わず顔を逸らした。
持ってきていたバッグ類をソファに置いて、ふと窓から外の景色を覗く。コガネの夜は綺麗だ。自分の出身地であると言う贔屓目を除いても本当に綺麗だと思う。けれどその上から一望する町並みの、光の眩さに僕はなんだか居心地が悪くなって、そっとカーテンを閉じた。罪悪感、にも似たこのモヤモヤの正体を僕は知らない。ゴールドさんの寝転んだベッドの脇に腰かけて、今日だけで何度目かのため息をついた。

「んなため息ばっかだと幸せ逃げちまうぜー?」
「……ですね。ゴールドさんにも失礼だ。すみません」
「別にんなこと気にしちゃいねえよ」
「でも……」
「つーかよ。どうでもいいから、おらっ!」
「うわっ!!」

どさり。当て嵌めるならそんな効果音が一番しっくりくる。
なんて冷静に分析している場合じゃない。腕を急に強く引かれて体が傾いた瞬間に、押し倒された。あ、この布団見た目よりフカフカしてる。じゃなくて。僕の上に馬乗りになったゴールドさんが舌なめずりした。うわ、これはつまり、

「……発情期なんです?」
「別にそういうわけでもねえんだけどな」

豪快に上着を脱ぎ捨て、ゴーグルもキャップも全てを取り払って、僕の帽子すらも勝手にソファに投げて。勝手に何してるんですか、なんて聞く暇もなかった。

「なあ、楽しませてくれんだろ?………ルビー」

それはもう妖艶に、ゴールドさんは微笑んで見せたのだった。ああ、だけどせめて靴は脱がせてほしいなあ。



「あ、ぁっ……ん!」
「……、」

ゴールドさんが動くたびに、背筋に電流が走ってるみたいにビリビリと何か、言葉でうまく表せない刺激が脳を強くダイレクトに突き抜けるような、そんな感覚に襲われる。女の人の膣を見たことも、ましてその中にいれるなんて、そんな経験はないけれど、ゴールドさんが腰を浮かせた時に見えるぐちゃぐちゃの結合部を見て、ああきっとこんな感じなんだろうなって、他人事みたいに思った。意識が遠いところにあるみたい。僕じゃないみたいだ。ただわかるのは、この行為がすごく、気持ちいいってことくらい。

「っ、ゴールドさん」
「んっん…!はぁ……何だよ…っぁ、っは……」
「その姿、えろ、い」
「お前も…あ、ぅ……色っぽい、ぜ……っ」
「ゴールドさんのナカ、すごく気持ちいいですっ……」
「はあ…っそりゃ、どうも……んあっ……」

されるがままに前戯を終わらされ、されるがままにというかゴールドさんのするがままに指で慣らされた彼の秘孔は、ゴールドさんの肩が跳ねるのと一緒にきゅう、と僕を強く締め付けるから。正直込み上げる射精感を耐えるので精一杯だ。一緒に動く余裕なんて、ない。(男同士のものと男女のものには快感に違いとかあるのかなって、ぼんやり考えたりはしたけど。)セックスってこんなに気持ちいいんだなって、ゴールドさんの矯声を聞きながら思った。女性より幾分低い、だけど男にしてはやや高めのアルト。それが震える唇から小さく漏れるのは、嫌じゃない。むしろもっと聞きたいと思った。はしたないのは、好きじゃないはずなんだけど。

「ぁあっ…ん…ぁ……、」

ほろ、と濡れた金色の目から涙が一筋零れた。きっと生理的なものなんだろうけど、(ゴールドさんが、泣いてる。)たまらなくなって、僕は上体を起こして無意識に彼の頬を撫でていた。ゴールドさんが目を丸くして、一瞬動くのを止める。指先でその跡をなぞって、あれ、僕は何をしてるんだろう。

「……続き、どうぞ、っ」
「はあ、んっ!」

誤魔化すように腰を突き上げてみたら、おもしろいくらいゴールドさんの体が弓なりにしなって、うわ、キツい。快感をやり過ごそうと唇を噛み締めていたら、自分の口から出た声に驚いたのかゴールドさんがぽかんと口を開けて、そのすぐ後にかああ、と耳まで顔を赤く染めた。え。なんだいこの反応。なんだか、(可愛い、なんて、思ってない。)

「……わす、れろ」
「嫌です、今さらでしょ、」
「クソッタレ、んっ…動くな、よ……っ」
「ん……もっと貴方の声、聞きたい…ゴールドさん、」
「、あ……はぁ……っ」

僕の肩に手を置いて息をつき、力なく頭を垂らしていたゴールドさんの耳に舌を這わせてみた。それが果たして気持ちいいことなのか何もかもはじめての僕にはわからないけれど、舌を差し込んだ瞬間彼のナカが強く締まったから多分良かったんだろうと思う。夢中でゴールドさんの耳を甘く噛んでみたり、息を吹きかけてると、動きを緩めていたゴールドさんの動きが速度を増して。鼓膜を刺激する二重の水音。たまらない。というか、そろそろ限界、だ。

「あ……っゴールドさん、もう……っ」
「はあ、あっ、ルビー…っ!ダメ、もう俺……っイくっ……!!」

ゴールドさんの腕が、僕の肩口を強く、すがるように掴んだ。強く強く離すまいと、僕の目を見て、訴えている。気づけば、僕は応えるように彼の腰に手を添えてその体を引き寄せていた。
どうして、僕はこんなことをしているんだろう。
わからないけど、もう退けない。この手を離すまいとしているのは僕も同じだった。なんて滑稽な話なんだろう。いや、自分の感情に忠実なのは僕だった。

「いい、ですよ、イってくださ……ぁ、っ」
「っや、ぁあ…!ルビ……ルビーっ……!!」
「ん、くぅ……っゴールド、!」
「っ…!ふ…ぁああっ!!」

ゴールドさんが深く腰を沈めた瞬間を狙って突き上げたら呆気なく精が弾けて、その刺激にゴールドさんも体をびくびく痙攣させて吐精した。呼吸が、乱れる。うまく息が吸えない。ただ射精後の倦怠感と、じんわり送れてやってくる心地よさに身を委ねれば、微睡みというのはすぐに訪れて。
ゴールドさんが僕のを抜いて、上から退く。それから今度は荒々しくじゃなくて優しく、母が子を寝かしつけるときのように押し倒して、頭をくしゃりと撫でた。汗ばんだ手のひらは、限りなく優しいものだった。

「おやすみ」



∴最期のはじまり2
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