不知火様へ、相互お礼!
スペのシロガネ山が雪山だったらというお話。







「あーもう!さっみい!!」

「だから、ゴー、おいで!」

「行きません。」


ここは、シロガネ山の頂上付近にある小さな洞窟。そこに張ってある小さなテントの中に居るのは、あまりの寒さに身を震わせて、摩擦でなんとかなんねえかと、必死で自分の両腕を擦ってる俺と、神経麻痺してんじゃねえかと思うくらい、寒さなんてなんとも無い様子で、満面の笑みを浮かべながら、バッと両手を広げるレッド先輩。
何、おいでって。俺の胸の中であっためてやるってか?冗談。

あー、マジさみい。こんな雪山に、短パンって本気で格好しくった。少しでも体を小さくまとめようと、縮こまってる俺と対照的に、どかってでっかく座って腕を広げるレッド先輩だって、半袖なんだけど、その腕には鳥肌ひとつ立ってねえ。あー、見てるこっちが寒いってんだよ。


「ゴー、いつものは?」

「バクたろうっスか?」

「そうそう。」

「ボールから出せないっス。誰かさんのせいで瀕死状態なんで。」

「あー、ゴーの指示が下手くそなせいで可哀想になあ。」


うるせえよ。んなもん何も言い返せねえじゃねえか。でもまあ、レッド先輩に教えを乞いた俺の判断は間違ってなかった。もちろん、先輩のポケモンが強えってのもあるが、立ち回らせ方が上手過ぎる。あそこで、電磁波は読めないっスよ。読めてたら勝ったかどうかっていうのは、また別の話だけど。今んとこ、俺の全敗。クソ。
手持ち全部瀕死状態で、早く回復させてやりてえ気持ちは山々なんだが、アイテムはさっきのバトルで全部使い切っちまったし、昼過ぎから降り出した雪のせいで、山を下りられない。こんな雪山で遭難なんて、洒落になんねえからな。
そういう事で、いつもあっためてくれるバクたろうも、他の相棒達もボールから出せねえ、バトルも出来ねえ、ここから動けねえっていう状況で、寒さは一向に増すばかりだ。

寒い寒い言ってると、だから、おいでって。と、先輩が相変わらず腕を広げたまま、ニコニコ笑ってる。いや、だからさ、


「行きませんて。」

「寒いんだろ?俺、体温高いからあったかいぜ?」

「何が悲しくて男二人で抱き合わないとなんないんスか。」

「大丈夫!ゴー、可愛いから。」

「意味わかんねえっス。」

「大丈夫だって、おいで!」

「行きません。」


何が大丈夫だよ、意味わかんねえって。
修行をしようって、始めた時からずっとこれだ。寒いって一言でも漏らせば、バッ!おいで!って、どんだけ抱き締めてえの?つか、先輩どんだけ俺の事好きなの?それでも、おいでって腕を広げてくるだけで、自分からは一切何もして来ない辺り、よくわかんねえ。
先輩のこと、よくわかんないっス、って言おうとして止めた。そんなの、俺がわかりたいって思ってるみてえじゃねえか。


「じゃあ、雪合戦しようぜ。」

「…は?」

「は、じゃなくて、雪合戦!」

「いやいや、もっと意味わかんないっス。」

「だから、雪を固めて雪玉を作って、それを相手に向かって投げるだろ?で、倒れた方が負けっていう、」

「いや、雪合戦の意味じゃなくて、つか、最後ちょっと違くないっスか?」


そういうことじゃなくて、なんでこのクソさみい中、わざわざ外出て、雪合戦なんかしなきゃなんねえんだよってこと。現在進行形で雪降ってんだぞ。んで、雪合戦に勝敗とかあったか?倒れた方が負けって、それ軽く命賭かってんじゃねえかよ。


「体動かせばあったかくなるじゃん。」

「でもわざわざ雪の中に出たら余計寒いっしょ。」

「我儘だなあ。」

「いや、我儘っつーか、」

「何、負けるのが怖いの?」

「…そんなんに、乗せられないっスよ。」

「バトルで俺に負けて、雪合戦でも負けるのが怖いんだ。」

「…ちげえよ。」

「じゃあ、何だよ。寒い寒い言ってるだけであったかくなると思ってんの?馬鹿?」

「…。」

「まあ、何で勝負したって、ゴーが俺に勝てるわけないし、馬鹿で弱いゴーくんは怖気づいてそこでぶるぶる震えてればいい、」

「やってやろうじゃねえかクソったれ!!!」

「…お前ほんと可愛いな。」


クッソ!!やってやろうじゃねえかよマジムカつく!!ふざけんな。
俺が先輩に勝てねえだと?んなことあるわけねえだろうが!雪合戦でも何でもしてやるよ見てろよこの野郎!
チョロいなって聞こえて、はっはっは顔面集中狙い決定。





「勝負って言うからには、何かあるんスよね?」

「当然、負けた方が勝った方の言う事、何でもひとつ聞く事。」

「ベタっスね。」

「馬鹿なゴーにも分かりやすくていいだろ?」

「そりゃあ有り難いっス。もうその減らず口叩けねえようにしてやりますよ。」

「やってみろよ。」


洞窟から出て、びゅーびゅーと風が吹きすさぶ山の上に出る。ちょー寒い。マジ寒い、体も声も震えるくらいさみいけど、それ以上に数メートル距離を取ったところからの、俺を馬鹿にする先輩の声が、ちょームカつく。雪ん中に石詰めてやりてえが、そんな反則は俺のスポーツマンシップに反するので、正々堂々、真っ向勝負でぶっ潰してやる。


「いくぜ?」

「どうぞ。」


しゃがみ込んで、雪玉を作る体勢を整える。先輩のよーい…どん!の声を合図によし!って意気込んで、勢い良く雪の中に手を突っ込んだ。瞬間。うん、まさにその瞬間。
ズドン…?ボフン…?いや、ドスン…かな。なんつったらいいかなー、例えるなら、大砲をぶっ放した時に聞こえるような音、かな?うん、そんな音と共に、しゃがみ込んで視線を落としていた雪の上に穴が開いた。わー、地面見えた。丁度、俺が手を突っ込んだ雪の数センチ左。……は?


「あれ、外しちゃった。」


外し、ちゃった…?え、何が?
え、先輩今何したの?投げたの?雪玉を?嘘嘘、大砲ぶっ放したんだろ?
ゆーっくり顔を上げて、離れたとこに居る先輩に視線を移すと、楽しそうに笑った先輩が、ぎゅーっと、両手で何かを握り締めてる。
あれは、雪玉じゃねえ。凶器だ。…ああ、雪合戦て、こんなに危ねえ遊びだったかな。


「次は当てるぜ。」


…うん、これは、あれだな。くるっと回って先輩に背中を向けて、一目散に、逃げるっ!!


「あ!ちょ、逃げんなよ!!」

「馬鹿じゃねえの!そんなの当たったら死ぬっつーの!!」

「死なないように加減してやってんじゃん!」

「嘘付け馬鹿力!!」

「弱虫!!」

「うるせえ!!!」


走りながら振り返ると、右手に凶器を持ったまま、レッド先輩も走って追いかけてくる。なんで追い掛けてくんだよ!つか、それ捨てて下さいマジで!
遭難なんかよりよっぽど洒落になんねえよ、雪合戦で死亡とか!

なんて、全力疾走してるときに、振り返ったのがまずかった。かつてない程のスピードで動いていた俺の両足は、雪に縺れて派手にこけちまった。やっべえ!
綺麗に跳ね上がった体は、数メートル先の雪の上にダイブ。いくら雪がクッションになったとはいえ、さすがにいてえ…って、そんな場合じゃなくって!!


「ゴー。」


後ろから聞こえた声に、すぐに振り返れなかった。ざくざく、雪を踏みしめる音が少しずつ大きくなって、ゆっくり振り返ってみて驚愕。
ニコニコ、そりゃあ嬉しそうに笑うレッド先輩の両手は頭上に上がってて、その両手の上には、でっけー玉。
何それ、雪だるまの体部分っスか。それとも元気玉っスか、いつの間にそんなに集めたんスか。つか、雪そんだけ集めたらクソ重いと思うんスけど、どうっスか。まさか、それを、この至近距離で俺に投げるつもり、っスか…?


「勝敗は、ちゃんと付けないとな。」

「ちょ、ギブギブ!!俺の負けでいいっスから!」


もー無理無理。マジ命が危ねえ!右手を突き出して制止を訴えると、ふふん、と満足げに笑ったレッド先輩が、ドサっと、自分の横にそのでっかい雪玉を下ろした。…はあ、マジなんなのこの人。


「じゃ、俺の勝ちってことで。」

「…はいはい、おめでとうございます。」



はあ、服に付いた雪を払いながら、安堵とか呆れとか色んな意味を込めて溜め息をひとつ零した。
これ溶けたらびしょびしょじゃねえかよ。手とかぜってー霜焼けになるし、結局ちょーつめてえし、ちょー寒いし、あー、


「やっぱ、雪合戦なんかすんじゃなかった。」

「あったまっただろ?」

「全然、ちょー寒いっス。」

「じゃあ、ほら、」

「はい?」

「おいで?」

「いや、」

「何でもひとつ、言う事聞く事。」

「…。」

「おいで?」


両腕を広げて、先輩が俺を待つ。…あーマジで雪合戦なんかするんじゃなかった。
勝負だったんだ、始める前に決めた事なんだ、仕方ねえから、その腕の中に納まってやる。途端に広がってた腕が、俺の背中に回って、ぎゅ、と抱き締められた。先輩の頬が、俺のと重なって、…やべえ、何これ。



「あは、やっと来た。」

「…勝負だからっスよ。」

「はいはい、わかってるよ。」

「つか、先輩マジであったかいっスね。」

「だろ?お前はすげえ冷たいのな。」

「そりゃあ、雪ん中ダイブしましたから。」

「それにしちゃ、顔が熱いけど?」

「うるさいっスよ。」



雪が降る山の上で、男二人が抱き合ってるなんて、滑稽だろうなって思ったけど、あったけえからいいんじゃねえかと。
まあ、俺の顔に触れてきた先輩の掌は、死ぬ程冷たくて、思いっきり払い除けてやったんだけどな。







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ウワアアアアアアアアアアアアアアアア赤金!!!なんて理想の!レゴー!!萌えすぎて吐血しましグハアッレッド先輩の甘やかし方が実にもうアレ言葉になりません……っ!!!相互と共にありがとうしまちゃん…!!!感謝!!
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