今日は空が喜んでるなあ、と顔を綻ばせながらイエローさんが呟いたものだから、私は思わず「え?」と聞き返してしまった。バタフリーを頭に乗せ、いつもはポニーテールを隠している麦わら帽子を手に持ち、空を仰ぐ彼女の髪は日の光に反射してとても綺麗だと思う。女性として本当に羨ましい。柔らかな風薫る丘で二人隣に並んで座りながら、私はそんなイエローさんをぼんやり眺めていた。振り向いた彼女がにこりと微笑めば、何となく雰囲気も華やぐのだから不思議。大きく羽根を揺らしたバタフリーが大きなリボンのようにも見えて、そこから伸びるポニーテールがさらさらと靡いた。やっぱり、綺麗だな。

「今日、すごく綺麗に晴れてるでしょう?」
「え?あ、はい」
「なんだか喜んでるみたいじゃないですか。ほら!雨の日はよく空が泣いてるって言いますし」
「ふふ…確かにそうかも」
「僕、こういうお天気大好きなんです。風は気持ちいいし、お花の香りもいいし、ぽかぽかして気持ちいいし…」
「私もわかりますよ。いいお散歩日和ですよね。なんだか眠くなっちゃう」
「眠いなら寝てもいいですよ?」

ほらどうぞ、と自分の膝をぽんぽんと叩いて見せるイエローさんに私は苦笑いで応える。この人は本当に天然というか、そんな所も彼女の魅力なのだけれど、と肩を落として見せた。

「今は大丈夫ですよ。例え話だもの」
「そうですか…?でも…うん。僕もクリスさんが起きてくれてる方が嬉しいです。たくさん話したいこともありますし」
「久しぶりですからね」

本当に、久しぶりだった。カントーとジョウトは思ったよりも距離がある。大型のひこうポケモンならまだしも、お互い手持ちのひこうタイプはバタフリーのピーすけとネイティオのネイぴょん。人ひとりを抱えて長い間飛び続けるのには不向きだし、まして頻繁にそれを繰り返させるなんてできない。
クリスさんに会えて嬉しいなあ、とにこにこ無邪気に笑うイエローさんにつられて、私も微笑んだ。同じ気持ちだってことが、こんなにも嬉しい。

「あ、でも」
「イエローさん?」
「クリスさんの寝顔を眺めたかったような気もします。へへ、僕の独り占めだ」
「……!」

本当にこの人は超が付くほどの天然さんで困る。きっと今の私の顔は、

「あれ?真っ赤ですよクリスさん?」

もしかして計算なんじゃないかって思ってしまう。(そうじゃないから困るんだけど!冷静に!落ち着いてクリスタル!)
慌ててばちん、と自分の両頬を叩くように押さえ付けたら、イエローさんが「ええ!?」って目を丸くして私を見つめた。そんな顔しないでくださいって言いたいけど、何がですかって返されるのがオチだからやめておいた。

「んー…な、なんでもないです。眠気覚ましというか、」
「そう、ですか?」

じっと私を見つめるイエローさんの視線が、なんとなく気恥ずかしくて、顔を背けて慌てて話題を探した。

「ほ、本当にいい天気!こんな日は、太陽が沈んじゃうのもったいないって思っちゃいますね」
「そうですね、きっと夜は夜で星が綺麗なんでしょうけど」
「今日の夜が楽しみだなー…私、星見るの大好きなんです」
「はは!確かにそんなイメージかもしれないです。クリスさんと言えば星ですし」
「そうですか?」
「はい。……あ、でも、やっぱり夜にはまだならないでほしいなあ」
「え?」
「クリスさんと過ごす今この時間を大切にしたいですし」
「〜っ!もう!イエローさんっ!」
「へ?」

ぽかんと口を開ける彼女は、やっぱりただの天然さんで、ああもう私はどうしたらいいの!
ふわり、とその時イエローさんの頭にとまっていたピーすけが、ぱたぱたと羽ばたいて私の頭の上に止まった。バタフリーの羽からはなんとなく甘い匂いが香る。ちょっと重いけど、ふんわりした優しい気持ちになるのを感じた。

「ピーすけ、まるでリボンみたいだ」
「……イエローさんの頭に乗ってる時、私も同じこと考えてました」
「じゃあ、一緒ですね」

くすくすと笑ったイエローさんと私の前に、甘い匂いに誘われたのかナゾノクサやキレイハナが顔を見せ始めた。ピーすけが羽根を羽ばたかせるたびに草葉はそよぎ、風も踊る。ああ、なんて優しい時間。

「みんなクリスさんに見惚れてるのかな」
「もう!そんなわけ…」
「でも、」
「…?」
「見せてあげません」

ずい、とイエローさんの顔が近づいた。
手に持っていたツバの大きな麦わら帽子を私とイエローさん、そして集まってきたポケモン達の間で遮るように彼女が持ち上げる。私と、彼女の口許を、隠すように。


「誰にも見せません。貴女のそんな顔」


ああ、私、今すごい顔してるんだろうなって、恥ずかしさに染め上げられていく意識の片隅でぼんやりと思った。



∴君がいるハッピーデイ

響音様へ。相互ありがとうございました!
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