「おいそこの暇人。ちょいと俺に付き合え」

まったく、今日は厄日だ。
ヒワダタウン、その賑やかでこそないものの人通りは多い、ヒワダ唯一の中心街の通り道。そこに突如現れたゴールドの、突然の横暴っぷりに俺はため息をつかざるをえなかった。なぜこいつがここにいるのか。なぜ俺がここにいることを知っているのか。聞きたいことは複数あるが、そんなことは今はどうでもいい。とりあえず。

「暇じゃない。帰れ」
「おうおうつれねえなァ。いいから付き合いやがれオラ」
「用もなしにヒワダに来るわけがないだろう。俺は忙しいんだ」
「ガンテツのじいさんからボール受けとりに来たんだろ?」
「……」

なぜそれを、と問う必要はないらしかった。奴の手にはヘビーボール――俺がガンテツに依頼をしておいたボールが収まっている。先回りして回収したらしい。

「寄越せ。それは俺の物だろう」
「誰も取りゃあしねえよ」

おら、と適当に投げられたボールを宙で捕える。さすがガンテツと言ったところか。一目見て触れただけでわかるボールの質の高さに俺は「ふん」と鼻をならした。上物だ。

「で。これでお前は名実共に暇人になったわけだ。そうだろシルバーちゃん」
「コソコソと人の周りを嗅ぎ回っていたお前には言われたくないな」
「へーへー悪かったな。どうせ俺も暇人ですよーっと」
「……で、何に付き合えって?」

本題を切り出せば、にやりと口の端をつり上げるゴールド。嫌な予感しかしない。嫌味ったらしい笑みを浮かべて、ゴールドは俺の眼前に迫った。近い。

「ポケスロン」
「…………は?」
「出ようぜ!」

にたあ、とバカ面が強調された何とも言い難い、やはり形容するならひどいバカ面でゴールドはそう言ってのけた。ポケスロン。噂には聞いたことがある。確かつい最近コガネシティの外れにオープンした、新しいテーマパーク。以前から、バトルではないもののポケモンとの相性や個々の力を見極めるのに絶好の場所でもあると、クリスに話だけは聞いていた。
俺をじっと見据えるゴールドの目はすでに勝利を確信している。なるほど、よほどトレーニングを積んだらしい。早い話が、単純なバトル以外での実力も俺と比較してみたいと、そういうことか。

「……それに出て、俺に何の得がある?」
「俺にお前が勝ったら一つだけなんでも言うこと聞いてやる。それと、もう休日につけ回して無理に誘うような真似もしねえ」

後半はそれが当たり前じゃないのか、と言おうと思ったが、意外にもゴールドの目が本気だったから、場を濁すのはやめておいた。

「……暇潰しにはなるか」
「言ったな?俺ァ強いぜ!かなり特訓したからな!」
「吠えてろ」
「そりゃこっちの台詞だ!」

絶対お前には負けないぜ!シルバー!そう俺を指差したゴールドの手を軽く払いのけ、本日二度目のため息をつく。やはり今日は厄日らしい。飛行手段であるヤミカラスをボールから出しながら、心中で小さく呟いた。





「…………おい」
「………」
「ゴールド」

さて。これからどうしたものか。
時間は流れ、俺たちは無事今日開幕されたポケスロンの大会に出場した。ゴールドとは違い初めての参加だった俺は多少心許ない指示もあったが、結果としてポケモン達の奮闘により優勝を果たしたのだった。そこはいい。俺としても、結果になかなか満足はしている。
問題は、こいつだ。

「……いつまで不貞腐れているつもりだ」

かなりの自信があったらしいポケスロンで、(僅かな差とは言え)俺に負けたのが相当悔しかったようだ。着替えを済ませ、会場を出てからもいつもの騒がしさは何処へやら。ただひたすら沈黙を貫いて俺の後ろを付いてくるのだから、俺としては後ろめたさなどよりも煩わしさの方が大きく、ちっと舌打ちを漏らすしかなかった。それでもゴールドに強く言えないのは、多少気にかけているからでもあるからで、しかしそれを伝えられないもどかしさも手伝ってかさらに苛々は増すばかりだ。

「……おい、ゴールド」
「…不貞腐れちゃいねえよ、コンチキが」
「それを不貞腐れていると言うんだ」
「ちげえよ。ったく、ガミガミうぜえな」
「八つ当たりするな」
「うん、ごめん」

動きを止める。今、ゴールドは何と言った?
振り返れば、「はあー……」と大きくため息をつくゴールドの姿。泣いてはいなかった。代わりに、泣きそうな顔はしていた。

「ゴールド……?」
「いや、悪かった。確かに今のはただの八つ当たりだわ。うんうん、俺もまだまだガキってこったな」
「……」
「実力が足りなかったのを人のせいにしちゃあなんねえ。もっぺん出直してくらぁ」
「……」

俺を再び見据えた金色の瞳は気丈にも涙の膜を貼ったまま、しかし揺れ動くことなく俺の銀を射抜く。
(……バカなやつだ。)
単純で、負けん気が強くて、意地っ張りで。だがしかしこの潔さ、そして次を見据えた、この意思の強さは、誉めてやってもいいと思う。

「……そうだ、ゴールド」
「あん?」
「何でも言うことを一つ聞くんだったな」
「げ!すっかり忘れてた!」
「ふん。今さら言い逃れは許さんぞ」
「わかってらぁ……俺も男だ。おら!命令しやがれ!言っとくが靴舐めろとかそんなんはやだからな!」
「誰がするか、そんな命令」

喜べ。俺は優しいからな。お前が喜ぶ、最良の言葉のプレゼントだ。


「また誘え、ポケスロン。休みの日でいいぞ」


ぴく、とゴールドの肩が動く。目を見張って俺を見つめるものだから、たまらず腕を掴んで引き寄せた。俺も甘くなったものだな。まったく、本当に今日は厄日だ。



∴ご褒美

やや太ちゃんへ。相互ありがとうございました!
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