(R15)

この行為に及ぶのに理由なんてなく、強いて言うならば、所謂『限界』というやつだったのかもしれない。久々に抱き締めたゴールドの温もりに安心して、言いようもなく愛おしく思って、衣服越しの抱擁がひどく物足りないものに感じた。それだけだった。

「おい、シル、」
「顔をよく見せろ」

強く抱きすくめられて苦しかったのか、みじろぐゴールドの顎を掴む。情欲に煽られていたのは俺だけではないらしい。ゆらゆらと悩ましげに揺れる金色を、視線で捕える。もう離しはしない。そのまま引き寄せられるように口づければ、ゴールドも目を細ながらおずおずと唇を開き誘うように舌を伸ばすのだ。たまらないな。

「お前、いつにも増して強引すぎ」
「嫌いじゃないだろう?」
「よくおわかりで」

おら、続けやがれ、と俺の首の後ろにゴールドが腕を回す。密着する体の火照りが、服越しでもしっかり伝わる。この熱は俺のものかゴールドのものか、おそらくはお互いのものなのだろうが、そんなことは今の俺たちには関係なかった。俺より幾分華奢な体つきのゴールドを掻き抱きながら、息継ぎもできないようなキスをする。唇を角度を変えて何度も貪り、一度絡めた舌を逃がさず夢中で味わう。ゴールドが苦しげに頭を引いたがそんなことは許さない。一度だけ口を離して呼吸の機会を与え、そして再びがっちりと引き寄せたゴールドに深く、それはもう気が遠くなるようなキスを、した。二人分の涎が口の端から溢れ、俺のフリースやらゴールドの上着やらを濡らしたが、そんなものは今さらだ。

「ん、んっ」
「っは………」

ほんの一瞬だったような、何時間もそうしていたような。思考回路が鈍って曖昧になった時間の流れの境目で、俺はゴールドの甘い唇を舌でなぞりながら考える。うっすらと瞼を開けば、すっかり紅潮しきった頬の赤みで興奮を隠しきれていないゴールドの、艶やかな表情。目眩がした。この男はこうにも無意識に人を煽るのが上手いのだから、目が離せない。俺が側にいないと、そう思うようになったのはいつからだっただろうか。他人と積極的な関わりを持つのは嫌だったはずなのに、こいつだけ、は。
(俺の、たった一人の、恋人。)
生涯愛していきたいと真に思えた。まだ十数年しか生きていない俺が『愛』なんて軽々しく口にすべきではないと、わかってはいるけれど。

「ふっ……、シル、バ」
「ゴールド……、」

名前を呼ぶだけで脳が、心が、全身が、潤う。渇きがなくなる。頭の先から足の爪先までゴールドを求めるほどに、渇く。渇望する。矛盾だらけだ。不思議と嫌悪感はなかった。

「抱きたい」

左手をゴールドの腰に回し、離すまいと抱き寄せた。女のように決して柔らかくはない体つきだが、それでも俺にとっては誰より最上で甘美に目に映る。まるで麻薬だと思った。ゴールドの、やはり赤く色づいた耳元で「ゴールド、」と名前を囁けば、

「抱かせてくださいの間違いだろうがよ、シルバー」

しかし減らず口を叩くことはやめない、誰にも屈しないこの男を、俺はただやはり愛しているのだと実感せざるを得なかった。



∴高架下のマリア
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