23日の11時59分に寝るから26日の0時に起こしてくれ。そんな自棄を起こす者が現れる12月下旬。街はイルミネーションで彩られ、楽しげな音楽が空気を満たす。浮かれた場に酔うように、俺はその言葉を口にしていた。さて、彼はどんな反応を返してくれるだろうか。
「なあ、俺と付き合わねえ?」
「独り身が虚しすぎてついに頭がどうかしたかゴールド。ここにお前の好きなギャルはいないぞ」
「ちげーよ!お前だお前、シルバー!」
ヤツはしばらく訝しむ目で俺を見ていた。が、
「ごっこ遊び、というわけか」
「理解が早くて結構!寂しい独り身で聖夜を過ごしたいか?ノーだよな?」
「……いいだろう」
契約は成立した。18日の今日から一週間、俺とシルバーは恋人同士だ。世のリア充共が引くほど俺たちのラブラブっぷりを見せつけてやろうじゃねえか。


オレとシルバーが"1週間限定の恋人"となって早数日。とりあえずシルバーが「今から会えないか」と言ってきたのでカントーに向かう。シルバーはブルー先輩たちと居るらしい。マサラタウンへはそう時間は掛からなかった。
ここに来るのも何度目であろうか。あのとき、シルバーに出会わなければいくら旅行好きの自分とは言え、きっとカントーに来ても観光施設などないこのマサラタウンに立ち寄ることは無かっただろう。そう考えれば、今までの経験が凄く大事に思えた。そんなことを考えながらゴールドは足を踏み出した。
「あれ、ゴー?」
ふと背後から聞こえた、馴染みのある声に振り返る。「レッド先輩」呼べば、ニカッと笑顔で彼は歩み寄ってきた。「珍しいじゃん、博士に用事?」問いには、首を横にふって応える。
「シルバーに会いに」
そう言うと、その赤い瞳を一段大きくし、驚いたように「珍しいな」とだけ呟いた。
「そう言えばゴーはクリスマス何か用事あるの?」
尋ねられて、ゴールドは目を丸くした。「シルバーと過ごすつもりっスけど」突然の問いかけに訝しげに返す。するとレッドが「シルバーと、ねぇ」と意味深げに笑った。
「なぁ、俺と過ごさない?」
「………は?」
彼の言い分が、まったく理解出来なかった。


「なーに言っちゃってんスか!先輩には過ごす相手いるじゃねぇッスか」
あえて誰とは言わねぇ。先輩だって意味に気付くくらいの頭脳は持ってるのだから笑い飛ばすくらいには問題は無いのに。
「俺はゴールドと過ごしたいんだ」
そう来ると思ったよ、コンチキが。
先程の笑顔を崩さずにそう言いのけるレッド先輩に笑いそうになる。全てを見透かした上での発言なのだから質が悪ぃ。誰だよ天然で鈍感だと名札貼った奴。先輩と過ごすのも一つの手でもあるけど。いいぜ、その演出に付き合ってやるよ。口を開こうとして、不意に片隅に置いていた映像が脳内全体に映し出す。澄ました顔でオレを捉える赤毛の彼を。それは一瞬でけれど余韻が続くのはきっと……。
「ねぇ、レッド先輩――」
答えは一つしかねぇのにな。タイムリミットまであと少し……。


レッド先輩の指が悪戯に俺の唇をなぞった、その時だった。
「……何をしている、ゴールド」
あからさまに不機嫌さを露にした、しかし耳によく馴染む透き通るアルトが俺の鼓膜を震わせる。振り返るまでもなく相手が誰なのかはわかった。はあ、と小さくため息を溢すと、俺に迫っていたレッド先輩の体が微かに振動しているのに気づいた。笑ってやがる。くそ、最悪ッスね、あんたも俺も。
「……何のつもりだ」
「ごめんなシルバー、そう怒るなよ?ほら、ゴー返すから許して!」
「返すってなんスか返すって!」
「だってゴーはシルバーのモノなんだろ?」
にっこり笑ったレッド先輩のその笑顔ときたら、さすがは俺の先輩兼師匠ッスね、ははは殴りてえ。
「俺、人のモノってすぐ欲しくなっちゃうんだよな」
そりゃあもう屈託のない、この世界の汚れも不条理も何一つ知らないような無邪気な笑みを浮かべるレッド先輩をシルバーが睨み付ける。だけど言葉とは裏腹に先輩は、その瞳に痛いくらい優しい光を灯してるんだからまったく救いようのないお人好しだ。シルバーもそれに気づいていた。やっぱ癪だよな、人に言われるのってさ。
「いい加減、素直になってもいいんじゃないか?」
それじゃあ、と手をヒラヒラさせその場を去るレッドさんの背中を一瞥する。ああ、やっぱりでけえなあ。わかってますよっと。そりゃあ何とも思ってなかったら野郎なんざ誘わねえし。「……言われなくても、そんなことは百も承知だ」ぽつりと呟いたシルバーの肩がえらく細く華奢に見えた。
なるほどこりゃあ危険な遊びを始めちまったっつうわけだ。上等だっつの。先に溺れるのはどっちだろうな。
「で、シルバーちゃん。俺は誰のモンなわけ?」
本気になったら負けのデスゲーム。なあ、ハッピーエンドを期待しててもいいんだろ?


「今、ここで聞きたいのか?」
挑発的な俺の笑みに挑戦的な言葉が返ってくる。ああ、お前負けず嫌いだもんな意外に。そういうとこ嫌いじゃないぜ。
「素直になれって説教されたばかりだろー?」
「この場での俺の言葉はゲームの中の嘘の言葉にしかならない」
俺を見つめる銀の目はいやになるほど真剣だ。その想いに呑まれる、囚われる、溺れてしまう。俺は俺のモノだ。なのにこの瞳を見てるとこいつのモノにならなってやってもいいかなんて思っちまう。
「回りくでえな。結論から言えよ」
「タイムリミットはまだ先だ」
なるほど、現時点で何を言ってもそれはゲームの中の言葉であり、真実とは限らないってわけだ。偽りが真実に反するって決まってるわけでもねえけどな。ま、折角始めたゲームは最後まで楽しむもんだろ。
「そういうことなら後のお楽しみってことで。ただしルール追加だ」
『一週間、恋人として付き合う』だけがルールだったゲーム。ゲームとは言えそこに勝敗は存在しない。これでは完全なゲームとしては成立しない。
「残りの期間でプレゼントを用意すること。相手が欲しいと思っていたものを渡せた方の勝ちってわけだ」
「……引き分けの場合は」
プレゼントがどちらもの好みだった場合、または好みで無かった場合。
「値打ちの高い物を渡した方の勝ち

「…………」
「文句あっか?いいだろわかりやすくて」
世の中夢見てると痛い目にあうぜ。あとこの条件で重要なのは値段だと思わないことだな
「それから、負けた方は当然罰ゲームな!」
「……内容を聞こう」
うんうん、お前の意見は聞く気ねえからそれでいい。
「相手の質問に一つ、正直に答えること」
ゲームという柵を取っ払った本音を。これなら嘘だなんだとぐだぐだ言えねえだろ?


「………」
まだ何か言いたげなシルバーを小突く。
「もしかして、自信ないとか?」
そうバカにしたように笑うと、一瞬怯んだシルバーだったが、すぐにいつもの不敵な笑みを浮かべた。ゲームとして、勝つ自信はある。しかし、ゲーム終了後に笑っていられるかは今の自分にはわからなかった。
「言い出しっぺに負ける気はしない」
言い放ったシルバーに、ゴールドは満足そうに頷く。とりあえずは、"1週間"を過ごすことが大事で、あくまで先程交わしたのは罰ゲーム。そう考えながらゴールドはシルバーの手を取った。
「……―――ッ!?」
そのまま腕を引っ張り、走り出す。今日誘ってきたのはシルバーだ。
「どうせ何処か行こうなんてケッタイなこたぁ考えてねぇんだろ?」
だったら俺がリードしてやるよ、恋人同士のデートってのをな。
「おい、ゴールド!」
ちょっと待てとシルバーが叫ぶがそんなこと聞く為に立ち止まる時間が惜しかった。1週間しかないんだぜ?損も後悔もしたくはない。「トゲたろう!」手を引いたままモンスターボールを投げる。はぁ、と溜め息をはき諦めたようにシルバーもドンカラスのボールを投げた。


横で陽気に笑う奴に再び溜め息。白色のドケキッスと黒色のドンカラス。何にも囚われずに生きるコイツと自由を奪われて生きてきた俺と。正反対なのに、いやだからこそ波長が合うのだろうか。単純なくせに全てが読めなくて翻弄される。
見透かしたような態度で俺を試す行動が気にくわない。レッド先輩相手に無防備で接するのも安易に手を繋ぐ行為も、計算か天然か理解に苦しむ。隙を見せる事がなく重ねた手は暖かい。何処に連れて行くのかは定かではないが何処でも構わない。隣にゴールドがいるという事実があればそれでいいのだから。
「確かここら辺だな」
「ここは…?」
ドンカラスから降りた先は予想が外れた場所だった。タマムシシティやヤマブキシティ辺りはコイツの好きそうな場所だからと想定していただけに不可解だ。「ハナダの岬ってとこだぜ」怪訝な視線を送る。辺りを見回しても隣にいる奴が好みそうな物は無い。
「知ってっか?ここってデートスポットらしいぜ」
「………珍しいな」
ピクリと反応してしまう。確かに景色は悪くなく落ち着いている雰囲気は良好とも思える。しかしコイツが好き好む場所とは到底考えられない。
「お前、騒がしいとこ苦手だろ?」
理解し終えた今の俺の表情はどうなっているのだろうか。


岬から臨んだ先の、水面がそこはかとなく揺れる。俺たちの背を柔らかく撫でる風は沈黙と安らぎを纏い、ハナダの町を満たしているのだろう。隣で穏やかな景色を見下ろしながら、至極優しい微笑を浮かべるゴールドの、その暖かな金色の瞳に目眩すら覚えた。
「……綺麗だな」
ぽつりと呟いた言葉はしっかりやつの耳にも届いたらしい。ゴールドは即座に俺に振り向き、にやり、と勝ち誇った笑みを浮かべた。
「だろ?さすが俺!」
「……ああ」
「本当はジョウトのいかりのみずうみでもいいかなって思ってたんだけどよ!やっぱカントーで、おまけにデートスポットっつったら……」
「そうじゃない」
「はあ?」
間抜けな顔して俺を黙視するゴールドの、その金色が、たまらなく欲しくなった。このゲーム、やつが俺の望むものを渡せるかはすべてゴールドの気持ち次第だ。どちらにどう転ぶか、不思議と不安はなく漠然とした愉快さだけが、俺の腹底に沈んでいくのを感じた。
「シルバー?」
名前を呼ばれ、そして俺もゴールドの目を見つめた。一陣の風が吹く。きっとはじめから、この一言が言いたかった。
「………綺麗だ、な」
頭の回転の早いゴールドが俺の言葉に隠された意味を理解し、その頬を朱に染め上げるまでそう時間はかからなかった。



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