オーバがせわしなく部屋のあちらこちらへと動くのを俺はソファに寝転んでただ眺めている。コードやらネジやら昨日ジムの改造に使った部品を広い集めて、軽く何か食べようとして失敗したインスタント食品の残骸を掃除機で吸い取って、「なんでチンするだけでこうなんだよ。」なんてぼやきながらそれでも掃除する手は休めないオーバの、動くたびに揺れる間抜けなアフロがおもしろい。傑作だ。写真を撮ってやろうと思ってふと気がつく。このデジカメにはムービーの機能がついていない。
あらかた片付け終わったオーバがじとりとした眼差しで俺を睨んできやがるから、俺は挑発するように笑ってやった。案の定、軽く頭を叩かれた。痛くはない。オーバはいつでもあまちゃんだ。

「なにすんだ」
「馬鹿!お前たまには自分でやれよ!」
「だるい」
「じゃあもう二度と俺を呼ぶな!迷惑だっての」
「俺が死んだら困るだろ?オーバ」
「残念だったな!かえって清々するさ俺は」

その台詞、今年に入って何十回目だろうな。無自覚だからこそ余計にたちの悪いオーバの悪態を聞き流し、俺は寝返りをうって背を向けた。

「オーバ」
「なんだ」
「飯」
「はいはい」

ほら、またそうやって俺を甘やかすお前が、俺を放っておけるはずがないんだ。バーカ。

「そうだ、オーバ」
「だから何だよ」
「カメラ買いにいきたい」
「金の無駄遣いだ。お前は何のエキスパートだよ」
「機械を弄る」
「正解。自分でカメラぐらい組み立てろっつうんだ」
「お前のイメージ像の俺って何でもできるんだな。さすが俺。やってみるか」
「はいはい頑張れ」

しばらくして台所から聞こえて来た、まな板と包丁の淡々としたリズムに、少しずれたオーバの鼻歌。「今日はハンバーグがいい。」って呟いたら、ご丁寧にも「そんな時間ないから鍋にする。」と返事が返って来た。しかし丁寧にも、「明日の夕飯はハンバーグにしてやるよ」なんてあいつが、いつもの調子で言うから。

「……明日はカレーの気分だ」

自惚れてしまう。
これじゃまるで俺達、長年連れ添った夫婦みたいじゃないか。



∴お見通し
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