空を見上げてふと微笑む、シルバーの横顔を眺めるのが、ゴールドはなぜかたまらなく好きだった。いくら見上げても宇宙にぴったし貼り付いたままの空は落っこちてなんか来ない。星だってそうだ。結局朝でも昼でも夜でも彼らは手を伸ばすことさえ躊躇われる現実を切り崩す術を知らない。しかしゴールドはそれでも好きだと思った。たまらなく、好きなのだと思ったのだ。冷たい風が頬を撫でる。もう冬は来ているらしい。寒い。
何をするわけでもなく男二人が川沿いの土手を並んで歩いている様子は、第三者にはどういう風に見えるのだろう。不毛だ、とゴールドは一瞬で浅はかな考えを切り捨てた。はじめからちらりとでも考えたのがバカだった。二人は『友達』なのだ。結局その延長線上でもがくしかない。どこからが愛情なのかなど、まだ幼い彼には知り得ない。だが、セックスすれば全てを縛れるなどいうのは誰かが吹いたホラ話だというのはよくわかっていた。結局ゴールドは未だに何も掴めてやしないのだ。

「シルバー」
「なんだ」
「肉まん食いてえ」
「勝手に買ってこい」
「つれねーの」
「どうしてほしいんだ」
「ついてきて」
「初めからそう言え」

シルバーの瞳がゴールドに向けられる。かちり、視線があって、再びシルバーは空を仰ぐ。彼の指先が一瞬躊躇いがちにさ迷ったのを、目ざといゴールドは見逃さなかった。
二人は友人という決められた延長線上で、それでも互いを想って生きている。きっとそれは幸せなことで、同時にこの上なく寂しいことなのだ。彼等が欲するものは、彼らにしか与えられないものだったのだ。

「だからさみぃっつってんだろうが」

きゅ、とゴールドがシルバーの手を掴んで、そのまま指を絡める。シルバーの手袋ごしの体温は暖かかった。それこそ、ブルーの愛情の現れた暖かさだった。シルバーは何も言わない。ただ、自然と力が込められた手のひらだけが、彼の心境をありのままに示している。



∴現実猶予
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