わたしには、少し変わった文通相手がいる。文通といっていいかはわからないけれど。
手紙の代わりに古ぼけた机。わたしたちはこのちいさな机の上で文通をしている。このことは実は誰にも言っていない。なんだかいけないことをしてるみたいで、子どもの頃の秘密基地みたいな、そんな気持ちになのだ。

最初はわたしの書いたただの落書きに返事が来て心底驚いたけど、興味本位でやりとりしていくうちに机上の相手の人柄というか、そういうのが垣間見えて楽しかったし、もっと知りたいななんて思ったりもした。この少しずつゆっくり会話する感じが、ゆるくてとても心地よい。今ではもう日常だ。いや、日常だった。

夏休みが明けてから、初めての世界史。もちろん胸は高鳴った。返事がきてるかな、夏休み前はちょっとタイミングが悪くて会話の途中だったし、進路の話なんて不躾だったかも。なんて考えながら机を覗くと見えるのはわたしの文字だけ。
まだ、授業なかったのかな?

わたしのクラスの世界史は月曜日の4限と水曜日の6限。今まで通りなら週に2回くらいは会話してたのに、来る日も来る日も返事がなかった。こんなことは初めてだ。風邪引いてるのかもと思ってまたしばらく待ってみたもののやっぱり残されてるのはわたしの文字だけだった。

席替え?教室が変わったのかな?どうしたんだろう、もしかして、もう面倒臭くなっちゃったのかな。

考えれば考えるほど落ち込んでしまって、親友にもたびたび心配される始末。
今日もわたしの文字だけが書かれてる机を見て、耐えきれず謝罪を添えて授業が終わり教室を出る。とぼとぼと歩いていると幸村くんが肩を叩いてきた。

「苗字さん、大丈夫?元気ないみたいだね」
「あー…うん、大丈夫だよ」

「悩みごと?俺でよければ聞くけど」
実際のところ、幸村くんはわりと話しやすい。テニス部って人気みたいで幸村くんと話してると睨まれることもけっこうあるけど、とくに紗江は気にしてないからわたしも気にせず話したりする。だから、つい話してしまった。もちろんわたしの話じゃなくて友だちの話にして。文通じゃなくてLIMEの話にして。

幸村くんはしばらく考え込んでたけど、やけににこやかに「大丈夫じゃないかな、もうちょっと待ってみたら?」なんて言った。

「そう、かな。うん、じゃあ待ってみる」

慌てて友達に言っとく!と付け足して元の教室に戻った。もう少しだけ待ってみよう。それでも来なかったら、わたしの書いたやつも全部消しちゃおう。



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