情報を集めた結果、先日のテニス部に興味を持たない女生徒はC組の苗字名前というらしい。成績は良い方で、友人関係も良好。しかし男子生徒とはあまり関わりを持たない大人しめな女性だった。苦手という訳では無いらしい。話しかけられたら普通に接するし、とくに怯える様子も見られない。単純に女友達といることが好きらしい。意外なもので、苗字名前と一番仲がいいのはC組でもちょっと浮いた存在の派手な女だ。名前は確か、松本紗江といったか。
「名前、課題忘れたー」
「また?もう、しかたないなあ」
C組のドアの近くで観察していると、ちょうど二人が話し始めた。松本は成績が良くないらしく、いつも課題を忘れては苗字を頼っているらしい。露出の高めな彼女に抱きつかれながら、苗字がにこやかに課題に手を伸ばす。対照的な2人に、少なからず周りは松本が苗字を利用しているなんて思っている輩もいるらしい。しかし俺が見る限りでは、二人にそんな雰囲気は感じられなかった。
「松本さん、課題はやった方がいいよ」
隣の席らしい精市が声をかけると面倒くさそうに、うるせえと語尾を伸ばして松本が欠伸をする。
なるほど、この女もテニス部に興味はないらしい。自分たちに興味を示さないことが気が楽なのか、精市が二人によく絡んでいるところを見かける。周りの女子の目は大したものだが、当人達はさして気にしてもないらしい。
「蓮二、そんなところでどうしたんだい?」
ふふ、と笑いかけてくる精市のもとへ仕方なく足を運ぶ。苗字は松本と話していて気がついていない。
「せっかくだから挨拶でもしたら?」
俺の存在に気づいたらしい二人が俺のことを見つめてきた。そのいたずらっ子のような笑みに若干不信感を持ちながら小さくため息をつく。
「柳だ。」
「苗字名前です。初めまして」
「松本紗江ー」
なんとも定型文めいた挨拶に、精市が吹き出す。
「二人とも、本当に俺達のこと知らないんだね」
「お前らなんか興味ねーよ」
「こら、紗江」
珍しいよ、と肩をすくめる精市に苗字がごめんねと謝る。松本紗江は口が悪いようだ。