「はあー、午後も乗ったねえ!ちょっと休憩!」

あれから写真を撮りつつまたアトラクション巡りを再開。さすがに疲れてきたのか、夕方くらいにはパーク内のカフェのテーブルに座って三人でひと息ついていた。

「ねえ、ずっと気になってたんだけど…どうしてはみちゃんは真宵ちゃんのことまよいさまって呼ぶの?」

ごっこ遊び?と聞くと二人して目をまん丸にして驚く。「あれ!話してなかったっけ!」とびっくりしたように聞かれて、う、うん…と曖昧に返すしかなかった。

「そうだったのですね、真宵さまは、倉院流霊媒道の当主になられるお方なんですよ!」

く、倉院流霊媒道当主…なんだか全然追いつけないワードがたくさんある。まったく理解できないわたしに、真宵ちゃんが補足で丁寧に説明してくれた。どうやら真宵ちゃんとはみちゃんは霊媒師で、現代じゃもはや真宵ちゃんたちの故郷である倉院の里くらいでしか行われていないらしい。そしてその当主が、真宵ちゃん。

「ま、真宵ちゃん…いや、真宵さま…」

真宵ちゃん、かなりすごい人なんだ。今までわたしなんかが気安くちゃん付けしてたのが恐ろしくなった。慌てて呼び方を訂正すると、真宵ちゃんはぷくっと頬を膨らませて真宵ちゃんって呼んで!と怒られてしまった。真宵ちゃん、霊媒ができるんだ。そういうオカルト的なものはあまり信じたことがないけれど、この二人に限ってこんな壮大な嘘をつくわけもないので素直に信じることにした。霊媒師、すごいなあ、わたしには縁のない世界だ。すごいねえと褒めると真宵ちゃんもはみちゃんも嬉しそうに笑ってくれた。

「それよりあたし、御剣検事と名前ちゃんのことのほうが気になるよ!」
「みつるぎ検事さん…いつの日か真宵さまをいじめてた方ですね!」

わたくし、許しません!と腕を捲ってすごい剣幕で凄むはみちゃん。み、御剣さん、どうやらすごくはみちゃんに嫌われてるらしい。一体何を…と聞くと真宵ちゃんがあわててあたしが逮捕されたときの検事さんだったんだよ!と教えてくれた。逮捕されたって言うのもだいぶ気になるところだけど、まあとりあえずはスルーしておこう。

「わたしと御剣さんっていわれても…一緒に住んでるだけで何もないよ?」
「まあ!名前さんはみつるぎ検事さんと生活してらっしゃるのですね、それはもう、素敵なことです」

両手をほっぺたにあててぽっと赤くさせるはみちゃん。…はみちゃん?

「…はみちゃん、誤解してない?」
「誤解なんてしておりません!男女がひとつ屋根の下…つまり名前さんとみつるぎ検事さんはコイビト同士なのでしょう?」


ごほっごほっとお茶を気管に詰まらせる。この流れ、何回目だ。あまりの飛躍っぷりに真宵ちゃんがこっそりと耳打ちしてくれる。はみちゃんは少々恋愛に対して極端なところがあるようだ。それを丁寧に否定するも、聞く耳を持たない。

「まあでも何もないって言っててもさ、実際どうなの?」
「ええ…?」
「そうです!名前さんはみつるぎ検事さんがお好きではないのですか!」

それはまあ、好きだけど…。二人の目はキラキラして今にも話してくれと言わんばかり。血のつながりを感じる、そっくりだ。

「好き、だけど」
「それはラブのほう?それとも、家族?」

そんなの、考えたことなかった。というより、御剣さんは明らかにわたしのことは眼中にないだろう。

「そんなこといわれても、御剣さんは大人だよ?わたしのことなんて相手にすらならないよ」
「もう、そうじゃなくて!」

ぷくっとまた頬を膨らませてしまった。「御剣検事がじゃなくて名前ちゃんの気持ちなの!」とぷりぷり怒る姿がなんだか可愛らしい。わたしの気持ち、ってなんだろう。間違いなく御剣さんのことは好きだしとても感謝している。でも恋愛の好きと家族の好き、その違いがわたしの十数年間の人生の中ではわからなかった。でもたぶん、


「家族……かなあ」

恋愛の好きといえば、まあお付き合いをしたいとかそう言うことだと思う。御剣さんとお付き合い……いやいや、さすがにないだろう。やっぱりどう考えても御剣さんのような人にわたしみたいな小娘は不釣り合いすぎて甚だしい。

「ふうん、じゃあ、そういうことにしておくね」

ねえ、はみちゃん。はい、そうですね真宵さま!とわたしの知らないところで目配せが行われる。なんだっていうんだ。わたしが聞きたそうにしているのを察したのか、休憩終わり!あれ乗ろ!とまた真宵ちゃんが駆け出してしまったのでわたしも仕方なく言葉を飲み込んでついていく。またしばらく散策しているともうとっぷり日も暮れて、閉園の音楽が聞こえてきた。そろそろ帰ろうとなって惜しみながらも丸一日楽しませてくれたテーマパークを後にする。はみちゃん送って帰るね、という真宵ちゃんにお礼を言ってバイバイをして、はみちゃんにもバイバイをした。「今日は本当に楽しかったです!また遊んでくださいね」とにっこりと、でもすこし眠たそうな顔で言われてわたしの頬も緩む。はみちゃん、ほんとうにいい子だったなあ。家路についてお風呂に入って、さすがに朝から歩き続けて身体が疲れ切っていたのか、ほとんど記憶が朧気なくらい強烈な眠気に襲われた。ベッドに行かなきゃ、明日もお休みでよかった。あ、撮った写真、見返そうと思ったのに…まあいいや、明日にしよう。


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