「名前ちゃん!こっちこっち早く!」
「ま、まって真宵ちゃん」


じりじりと身を焦がすような日差しが照りつけるある夏の空の下、がやがやと色んな人々の声と音が飛び交う場所にわたしと真宵ちゃんは来ていた。ここは、成歩堂法律事務所からほど近いところにあるテーマパークだ。なぜこんなところにわたしが来ているかというと、話は1週間ほど前に遡る。休日の昼下がりにいきなりインターホンが鳴って出てみると、なんと真宵ちゃんが家の前で待っていたのだ。快く迎え入れればいきなりどんっと顔の前に出されたのがこのテーマパークのチケット。どうやら成歩堂さんがもらってきたらしいけど、興味がないからといって真宵ちゃんに託されたのだという。嬉しそうに一緒に行こう!と言われて、戸惑いはしたものの素直に嬉しかったので快諾したわけだ。真宵ちゃんとお友達になってからなんだかんだで一緒にお出かけする機会がなかったから楽しみだった。もう数日前からうまく寝られないくらい。今日は朝からせっせと準備して、起きてきた御剣さんにろくに挨拶もできずに急いで出てきて今に至る。まだ早朝だというのに待ち合わせに現れた真宵ちゃんはすでに元気いっぱいで羨ましい。そういえば昨日御剣さんが「何かあったらすぐ連絡するように」と二、三回念押しされた。…そんなに心配しなくてもいいのに。

「いやー、快晴だね!アトラクション日和だよ!」
「そうだね。…あれ、そういえばチケット3枚なかった?」

あのとき目の前に出されたチケットは確か3枚。てっきり成歩堂さんと真宵ちゃんとわたしだと思っていたのだけど、真宵ちゃんのうしろに成歩堂さんはいない。見間違いだったかなあ、と真宵ちゃんに問うと可愛らしい顔でにっこりと笑った。

「今日はね、名前ちゃんに会わせたい子がいるんだあ」
「そうなの?」
「うん!はみちゃんっていってね、あたしのイトコの子なんだけど…」

もう来てるはず、とテーマパーク前をきょろきょろしていると、あ!と大きな声をあげてこっちこっちと呼び寄せた。そっか、真宵ちゃんのイトコ。いい子なことには間違いないと思うけど、緊張してしまうな。真宵ちゃんみたいに話しやすい子だったらいいなあ。

「はみちゃんおはよう!」
「おはようございます、真宵さま!」

ぱたぱたと駆け寄ってきた女の子を見れば、予想よりもずいぶん小さな可愛らしい子だった。小学生くらいだろうか、茶色の髪を頭のてっぺんで結んで、真宵ちゃんと似たような一風変わった服を着ている。背がちっちゃくて目がおっきくて、どことなく真宵ちゃんに似てるかも。

「はみちゃん、こちらが苗字名前ちゃんだよ!」
「まあ、あなたが名前さんなのですね!真宵さまからお話を聞いています!わたくし、綾里春美ともうします」

なんとまあ、小さいのにとってもしっかりした子だ。丁寧にお辞儀をする女の子に、わたしもあわててお辞儀を返す。

「わ、よろしくね、…はみちゃん?」
「はい!そう呼んでくださいまし!」

両手を合わせてにこにこと笑うはみちゃん。あ、いまの真宵ちゃんにそっくり。とっても気遣いができる明るい子のようで、こんなわたしでも仲良くなれそうだと安心した。

「わたくし、このようなテーマパークはあまり行ったことがないです」
「そうだよね!よーし、遊ぶぞお!」

行けー!と声を上げてテーマパーク内まで突然競争が始まり、わたしもはみちゃんも真宵ちゃんの後を追いかける。チケットを通して、いざ入園だ。
実のところわたしもはみちゃんとおんなじで、あんまりこういうところに行ったことがなかったから、真宵ちゃんがマップを見ながら誘導してくれてありがたかった。乗りたいものは事前に調べてたようで、あれ乗ろう!と早速連れてこられたのがジェットコースター。真宵ちゃん、絶叫好きなんだなあ。

「名前ちゃんジェットコースター乗れる?」
「うん、たぶん大丈夫。…でも、はみちゃん乗れるかな?」

はみちゃんはずいぶん小さいから、身長制限に引っかかるかもしれないと測定パネルを指差すと、真宵ちゃんが大口を開けて項垂れた。

「それは…盲点だったよ」
「わ、わたくし何がなんでも乗りますから!」
「まあ、とりあえず測りに行こうか」

おそるおそる、パネルの前に立ってもらって身長を見る。……ぎりぎり行けそうだ、よかった。あのときの二人の喜びようったらなかった。きゃいきゃいはしゃぎながら人生初といっても過言ではないジェットコースターに乗り込む。


「あー!楽しかった!もっかい乗りたいな」
「ま、真宵さま、わたくしなんだかお腹のなかが浮いてしまいそうでした…」

ドキドキしながら乗ったけれど、案外平気だったしなんなら楽しかった。今までこういうアクティブなことはしない方だったから、敬遠してたけど。はみちゃんははじめてのジェットコースターで泣いちゃうかもと心配したけれど、こちらも案外平気だったのかな?はじめての感覚におっかなびっくりといった様子だ。わかるよ、なんか、内臓浮くよね。

「はみちゃん、落ちるときに顔上げて空見るといいよ」
「そうなのですか?名前さんは物知りです!また乗りましょうね!」

たまたまいつか見たテレビでやってたライフハックを教えてあげると、ぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでくれた。はみちゃん、かわいい。
このジェットコースターを皮切りに、いろんなアトラクションに乗った。絶叫ものから船に乗るクルーズ、キャラクター劇まで様々だ。3人で時間を忘れて遊び回っていたので気がつけばお昼ご飯の時間なんてとっくに過ぎていた。


「あーお腹すいた!ゴハンたべよっか」
「真宵さま!わたくし、あれが食べたいです」
「あれは、…チュロス?」

はみちゃんが指差したのはテーマパークでは定番のチュロスだ。シーズンごとに装飾が変わって見てるだけで楽しくなってしまう。さっそく露店に並んで3人でおそろいのチュロスを食べる。

「あ!名前ちゃん携帯持ってる?」
「うん、持ってるよ」
「ちょっと貸して!……はい、はみちゃん名前ちゃん笑って!」

携帯を差し出すと向けられるカメラ。写真を撮られることも撮ることも滅多にないから、戸惑ってどうしたらいいかわからずにいると、はみちゃんがわたしの手を握ってピースをしてくれた。ぱしゃり、と鳴る電子音。「名前ちゃん、カオが固いよ」と笑われる。なんだか恥ずかしくなって三人で撮ろうと提案すれば真宵ちゃんが笑顔で内カメラにして自撮りをしてくれた。三人でチュロスを持って笑ってる写真。こうやって友達と写真を撮ることもあまりなかったから新鮮だ。思い出を残すっていいな。わたしも今度御剣さんとやろうかな、…嫌がられるかな。それにしてもいいなあこれ、この写真、ぜったい大切にしよう。チュロスを食べ終わったあとも言うまでもなく、色んなところで撮影会が始まった。


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