「けー、いー、くん!」

あー、またきた、ウザったいのが。
いつもちょこちょこ僕の周りを駆け巡る犬、のような存在が

「ねえ蛍くん!きいてよ!」

高い声で吠える吠える。高いくせに他の女子みたいなキーキーした声じゃないところがむかつく。

「ねえよー蛍くん?」

ああ、ウザったい。大きい目で不思議そうに見上げてくる姿がウザい。

「…なに」
ばしばしと背中を叩いてくる彼女を一瞥する

「あっ蛍くん!!聞いてよさっきね山口がね、」
ホラ、始まったよ。こんだけ僕につきまとっといて、とうの本人は僕じゃなくて山口が好きなんだ。
口を開けば山口山口。しかも山口が俺の周りにいないときを狙って。
本当にウザったい。

「あーあー、わかったよ、好きだね、山口」
前に名前サンが山口の話をしてる時に山口が来たことがある。名前サンは驚いたように山口をみて、僕の顔を見たりして顔を赤くしてた。何なんだよ。

「えっ…」
途端に名前サンはさっと顔を青くした。なに?今さら確信突かれて驚いてるわけ?

「山口もきっとキミのこと好きだと思うよ。よく名前サンのこと話してるし」
事実を喋ってるだけなのになんとなくイライラして、首にかけてるヘッドホンを上げて名前サンの元から逃げるように去った。
あーあー、ほんと、ウザったい。なんで僕じゃないわけ。



そんなことがあった後で、山口に会うのはなんとなく嫌だった。と、いってもクラスは一緒だし部活も一緒で会わないことなんてないんだケド。
イライラしてたからか授業中指されても思うように答えられなかった。ほんと、調子狂う。

その後の部活でもいつも以上にうまく行かなかった。名前サンとは隣のクラスだけど、部活のときまで一切会わなかった。いつもなら毎時間僕のところまで来てたのにさ、

「…ね、ツッキー」
少し遅れて来たらしい山口が部活のあとに僕を呼び出した。しかもすごく神妙な顔をして。

「あの、名前のことなんだけどさ、」
はあ?なんで、山口の口から名前サンのことがでるわけ
ああそうか、僕に言われて告ったりしたのかな、あーほんと、ウザったい

「ああ、名前サン?彼女、きみのこと好きらしいよ」
思ったよりも低く冷たい声が出た。なんであいつのことでこんなにイライラしなきゃなんないの

「ツ、ツッキー、それ、本気で言ってるの?」
あの、名前はさ、と山口は言葉に詰まる。

「本気も何も、そうデショ。」

「っ彼女はさ、ツッキーのことが好きなんだよ!」
焦ったように山口が声を大きくした。
…は?いま、なんて言った?

文字通り目を丸くしてるだろう僕に山口は畳み掛ける


「えっと、名前から聞いたんだ、勘違いされてるって、泣いてたよ」

「そのさ、名前が俺の話するのって、ツッキーといっぱい話すためで、」

「前に俺が話に入ったときも、前の時間にツッキーと話させてあげるよって俺が言ったからで」

「ええっとつまりその、好きじゃなかったら毎時間ツッキーのところには来ないと思う!!」


うんうんと悩みながら言う山口の言葉に、脳天から雷が落ちたようだった。つまり、名前サンは山口は好きじゃなくて、?冗談デショ、そんなの。っておもっても、山口の表情はとてもそれには見えなくて

「ツッキー…名前、いま教室にいるんだけど、」
バツの悪そうに頬をかく山口に、さすがの僕も悟った。急いで山口に先帰っててと言って走り出す。
後ろから嬉しそうな声で「ツッキーがんばれ!」なんて声が聞こえるけど気にするヒマもない。

なんなのそれ、
そういうのって、ほんとない
そんなの、ずるいじゃないか

ほんと、ウザったい。


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