「山口くん、おはよう」

登校して教室に向かっていたとき、一年四組の教室から女の子が出てきた。
苗字さんは同じクラスメイトだ。そして付き合って一ヶ月になる俺の…彼女。
俺らと同じクラスで、ツッキーと張り合うくらいに頭がいい。それをひけらかすこともせず、友達の質問に答えてあげたりノートを貸してあげたりするようなとってもいい子だ。なんでそんな子と付き合えたのか本当に謎だが、なんと苗字さんのほうから告白してくれたのだ。

「山口くん、また寝癖ついてるよ」
かがんで、といわれて目線を低くすると背伸びをして俺の後ろ髪を撫でた。かわいすぎておかしくなりそうだ。ツッキーにも彼女がいないのに、俺なんかにいて許されるのか?

「朝からお熱いことで」
後ろからだるそうにツッキーが話しかけてくる。お付き合いとかこういったことが初めてだから、どう反応していいかわからずに顔を赤くする。

「もう、月島からかわないで」
「はいはい、…あ、名前サン前のノート返す。ひとつ誤字あったケド」

ぽい、と投げるように苗字さんのノートを返す。それに苗字さんは笑いながらひどいなあ直しといてよなんて答えて談笑する。その光景を、どうしても俺は後ろで見ているだけだった。

ツッキーは苗字さんと結構話すようで、珍しく女子のことを名前で呼んでるしこのツッキーにノートを頼まれるのなんてほぼいないんじゃないんかな。俺でさえ苗字でしか呼べてないのに、ツッキーばかり交流がある気がしてならない。
ツッキーのことは本当に尊敬してるし友達として誇りだ。だからこそ、ツッキーがもしも苗字さんのことが気になってたりしたら…俺は退くしかないと思う。苗字さんへの気持ちは誰にも負けないと思うけど、二人並んでいるところを見ても俺なんかよりツッキーの方がお似合いだ。
付き合って一週間ほどたったころ、まだツッキーにしかいってなかったのにクラス中にはもう知れ渡っていて、好奇の目に晒されたことがある。そりゃあそうだ、苗字さんは誰から見ても非の打ち所がないと思う。男子と話してるところはあまり見ないが、いつも女子に囲まれて朗らかに笑ってる。クラスの中にもきっと狙っていた人がいたと思う。そんな中俺と付き合ってくれたんだから大騒ぎにもなる。苗字さんが小声で、ごめんね、なんでだろう、気にしないで。なんて言ってくれたし、どうにか気にしないようにしていたけどそんなの無理だった。なんで俺なんかと付き合ってくれたのだろう。たまに一緒に帰ったり、楽しい時間を過ごしていてもふとしたときに脳裏に浮かんでしまうのだ。あのとき本当に恥ずかしそうに、顔を真っ赤にしながら告白してくれたのが嘘だったのではないかと今でも思う。

「山口くん、大丈夫?体調わるい?」

また、嫌な想像をしてしまった。考え込んで暗い顔をしてたのか、苗字さんが心配そうに顔をのぞいてきた。

「あっいや、大丈夫…」
「……山口は俺に嫉妬したんデショ。心配しなくても俺は名前サンとか興味ないから」

「それはそれでひどくない?」

ツッキーの辛辣な言葉にも柔軟に対応する。じゃあ、といってツッキーは席に戻ってしまった。二人の間にちょっと微妙な時間が流れる。えっと、どうしよう、何話せば

「山口くん、わたしと付き合うの、しんどい?」

不安そうに大きな瞳が揺らぐ。絶対、そんなことはない。だってまだ信じられないくらいだ。

「え?!そんなことないよ!っていうか、ほんと、あの…うれしいし」

面と向かって言うのがすごく恥ずかしくて、最後の方が声が小さくなってしまった。それを聞いて苗字さんはよかったあと安心したように笑う。

「心配しちゃった、二人で話してるときょろきょろしてたりするから」
「ご、ごめん…なんていうか、俺なんかでいいのかなって」

え、と今度は大きく目が開かれる。表情がころころかわって可愛らしい。

「ま、まって、あれ?わたしが告白したんだよ?」
「いや!そうなんだけど!」
「…わたし、山口くんが本当に好きだなって思ったんだよ。周りのこと見てるし、気遣いできてすごく優しい。月島に引け目を感じてるのかもしれないけど、わたしにとっては山口くんが一番かっこいいよ、」

恥ずかしそうに俯きながら苗字さんが話す。俺からはつむじしか見えないけど、そのつむじでさえも赤く染まっていて、数秒たって、自分の顔も赤くなるのを感じた。

「え、あ、そ、そっか…」
「うん……」

また、沈黙。苗字さんの気持ちが聞けて嬉しい反面、ここからどうしたらいいのかわからない。恋愛経験が少ないと本当にどうしたらいいのかわからない。

「や、山口くんは?」

きゅっと口を結んだ苗字さんが俺と目が合う。
た、たしかに、女の子に言わせっぱなしって、これかなりかっこ悪くないか?おれ


「っ俺も、好き…です」

それを聞くと今日一番のとびきりの笑顔で、答えてくれた。その言葉と笑顔を聞いて、いままで悩んでたことが綺麗さっぱり洗い流されてしまったようだ。


「…あのさあ、そういうの外でやってくんない?」

はあ、とツッキーが恨めしそうにため息をつきながら歩いてくるのを見て、はたと気づいた。……ここ、教室の前だ。そんなことすっかり忘れてた俺たちはふたりとも赤面して、そして顔を見合わせて笑い合った。


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