「捜査ッス捜査ッス!」

御剣怜侍から命を受けた糸鋸圭介は、鼻息をフンフンさせながらショッピングモールの最寄駅付近に来ていた。聴取によると、件の女性である苗字名前が行方不明となったのはこのショッピングモールを出て友人と別れたあとである。糸鋸は、まずはなにから捜査をするか思案していたが、ひとまず聞き込みしかないと思ったのか意気揚々と彼女らが回ったであろう店に片っ端から聞き込みに行った。

「ちょっといいッスか?一ヶ月前にこんな女の子が来なかったッスか?」

念のため警察手帳を見せながら、友人から拝借した苗字名前の写真を見せるが、なにせ一ヶ月も前の来訪者だ。ただでさえこのショッピングモールはひっきりなしに客が出入りするし、昨日今日の話ならともかくそんな前のことはどの店員に聞いてもわからない、と首を傾げるばかりだった。それを何度か繰り返し、ついに彼女らが回ったところを全て聞き終えてしまった。成果は無論、無しだ。
ガックリ、というように肩を落としながら歩き、インフォメーションで事情を話して防犯カメラをチェックさせてもらった。

「この日の様子は残されているッスか?」
「うーん………この防犯カメラは二週間ごとに上書きされてしまいますので、残っていないですね」
「…ここもだめッスか…」

防犯カメラの映像が残っていれば、その日の細かい動きやまわりに不審者がいなかったかなどがわかったかもしれないのに、解決の糸口はまた一歩退いてしまった。どうやらこのショッピングモールで得られる手がかりはいまのところないらしい。
糸鋸は落ち込むが、よし!とまた自分を奮い立たせて行方不明者届を提出した母親にさらに詳しく話を聞くことにした。苗字名前と母親は離れて暮らしており、場所もここからだとやや遠かったがそんなことはこの男に関係がなかった。捜査のためならどんな場所でもなんのこの、それがデカ魂であるというのが彼の信条だ。

1時間ほど移動して、もうあたりは暗みかけていたがかまわず一軒家のインターホンを押す。娘が帰ってきたと思ったのか、期待に満ちた様子で母親が勢いよく扉を開けたがそこにいるのは古ぼけたコートの大男ただ一人。落胆を隠さず、だがしかしあのとき親身に話を聞いてくれた刑事だと気がつくと母親は弱々しい笑顔を向けながら家の中へ誘った。

「まだ有力な情報が見つかってないッス、すまねッス…」
「いえ、そんな…こんなところまでわざわざありがとうございます。」
ことのあらましは大方聞いていたが、糸鋸は手帳とペンを持ちながら次々と細かな質問をしていった。

「犯人に心当たりは本当にないッスか?ストーキングにあっていたとか」
「離れて暮らしているからか、そんな話は聞いていないんです、…それどころか、昔から男友達も多い子ではありませんでした」


「これまで今回みたいに急に連絡が取れなくなったことはあったッスか?」
「それも…すみません、あの子のお友達に聞いたほうがいいかと」

目ぼしい情報は見つからない。リビングには苗字名前とその両親が笑い合っている写真が多数あり、家族関係は良好のようだ。聞く限りでは優しくて真面目で、親を心配させるようなことはしたことがないとのことだった。聞けば聞くほど、ただの家出の線が薄くなる。時計を見ると19時を回りそうだったので、糸鋸は「今日はそろそろお暇するッス!絶対娘さんを見つけ出すッスから、安心して待っていてほしいッス!」と言い残して一軒家を出た。母親は玄関で深々と頭を下げたまま、糸鋸の姿が見えなくなるまでそのままだった。


また1時間近くをかけ、勇盟大学の近くを歩く。
はあぁと大きなため息をつく。糸鋸は不安だった。せっかく上司の許可をもらって捜査をさせてもらっているのに、得られる情報がまったくない。

「御剣検事になんて報告したらいいッスかねぇ…」

ふと地面にあった目線を上げると、少し先の方で見知った服と黒髪の一部を頭のてっぺんでちょこんとお団子にした見知った頭があった。その少女にはひどく見覚えがあった。いつもトラブルばかり持ってくる弁護士の助手の女の子だ。聞き込みの途中ではあったが、進捗のなさもあって少女に軽く話を聞いてもらおうと糸鋸は小走りでその少女の背中に声をかけた。


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