わたしのきらいな季節は、冬だ。もっと詳しくいうと、11月から4月の5ヶ月。
だって谷の住人のほとんどが冬眠してしまうし、冬眠されてしまったらわたしはひとりぽっち。だから毎年水あび小屋までいってトゥーティッキと過ごす。もちろん、トゥーティッキと過ごす時間もとても楽しい。2人でのんびりワカサギ釣りしたり、雪だるまや雪のうまを作ったり、真っ暗な夜には小屋のストウブであったまるのだ。そうしているうちにどんどん時間は過ぎるけれど、いつもムーミンやミィ、スニフと遊んでにぎやかに過ごしていたときと比べるとやっぱりすこしさみしい。

しかも、これが一番重要なのだが、冬はスナフキンもいない。

冬眠しない住人は、おのおの自分の家に籠るか暖かい地域に冬眠期間移住する。スナフキンも後者のひとりだ。いや、スナフキンの場合は住人というわけでも移住というわけでもない。定住することがないから。ふらふらと自由になににも囚われずに旅をするのだ。このムーミン谷のことは気に入っているようで、一年のうち春から秋まではムーミン谷に来てくれることが多い。
以前、スナフキンに聞いたことがある。「どうして旅をするの?」それはスナフキンに会った人なら一度は訪ねるかもしれない。その問いにのらりくらりとかわして、なんだかむずかしいことを言っていた。「孤独になりたいんだよ」


それをきいて、よくわからないなと思った。だって孤独はさみしい。わたしは毎年冬の間は孤独を感じる。だってだれも遊んでくれない、ご飯を食べてくれない。もっとも、トゥーティッキがいるからほんものの孤独ではないけれど。

「そんな顔するなよ」
「だって、わたしは、孤独になりたくない」
「名前も、そのうちわかるかもしれないね」

わかるときが、くるのだろうか。
物心ついたときからムーミン谷にいて、ここまで育ってきたわたしはムーミン谷以外のことはよくわからない。おさびし山もミィやスナフキンはよく行ってるようだけど、わたしはちょっとこわいからあんまり行ったことがない。スナフキンはいままで本当にいろんなところを歩いてきたから、わたしとは違う感覚なのかも。わたしも、旅したらわかるかなあ。

「この谷は大好きさ、ムーミンやスニフたちも、もちろん名前のことも」

じゃあ冬もいてくれたらいいのに。わたしは冬眠しないんだから、わたしが好きならずっといてくれたらいいのに。
わたしが考えてることがわかったのか、スナフキンはふふっと笑ってわたしの頭を撫でる。
「好きだから、孤独を感じに行くんだ」
そう言い残して、スナフキンはまた旅に出てしまった。それがムーミンたちが冬眠に入る数日前。いまこの白い世界で、スナフキンはなにをしてるのかな。


「名前、そろそろ日が沈むから中に入りましょう」

桟橋に腰掛けて、スナフキンのことを考えていたらトゥーティッキが毛布を持ってやってきた。わたしひとりじゃぜんぜん答えが出なかったから、トゥーティッキに聞いてみた。

「どうしてスナフキンは、好きなのに独りになるのかなあ」
「そうねえ、名前には難しいかもしれないけれど、どんなことでも、自分で見つけださなきゃいけないものよ。」

答えは教えてもらえなかった。うんうんと考えながら、トゥーティッキが作ってくれたスウプを飲む。
わたしもみんなのことが大好き。だから冬がさみしい。でも、春になってみんなと遊べるようになるのがとてもうれしい。離れてたぶん、会うのが楽しみ。


「……あ!」
食事の最中でわたしが大きな声を出すと、トゥーティッキは驚くことも、怒ることもなくにこりと笑った。
スナフキンはもしかして、次ムーミンたちに会うのがよりいっそう嬉しく感じられるように、あのにぎやかな日々を噛みしめるために、独りでいるのかな。毎日会う当たり前より、確かじゃない再会のほうがよりうれしく感じる。わたしも、スナフキンに再会したときすごくうれしいもの。答えが出たらなんてことないことだった。もちろん、ほんとうにスナフキンがそう考えてるかはわからないけれど。でもわたしの中の心のもやもやが晴れた気がする。わたしと一緒にいてくれないもやもや。みんなに会えない冬のもやもや。わたしが嫌いだといった冬を、違う見方で楽しんでいる。そっか、やっぱりスナフキンはすごいや。

次の春、スナフキンが戻ったら教えてあげよう。わたし、冬がちょっとだけ好きになったよ


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