いらっしゃいませー
もう何回言ったのかわからないワードを無の境地で口にする。今日も今日とて社畜です。いや、バイ畜?

あくびを噛み殺しながら店内に入ってきた人物をぼうっと見つめると、大きい背中を丸めてなんだか深緑色した顔をぶら下げてヨロヨロ歩いてくるなるほどさんだった。正直目を疑った。だってここにくるなるほどさんはいつもぱりっとしたスーツ、パリっとした髪型、金ピカのなにかを胸につけて白い歯を見せてさわやかに笑う人なのだ。だがこの人はどうだろう、もしかしてそっくりさん?などと考えているとわたしに気づいたなるほどさん(仮)が「やあ……。」と死にそうな声を発した。あ、これなるほどさんだわ。

「え?大丈夫ですか?おおよそ外に出てはいけなそうな出立ちですけど」

「ちょっと、タチの悪い風邪をひいてね。めったに引かないんだけど」

寒気がするのか自分で自分の肩を抱いて震えている。いや、コンビニ来ちゃいけない体調では?

「え、帰った方が良くないですか?どうしたんですかこんなしがないコンビニに……」
「今家に何もないんだ、昨日真宵ちゃんが来ただろう?今日はお休みでさ」

なるほど、おつかいをしてくれたマヨイちゃんがいないから食料を買いに来たらしい。おつかい初心者と思われるマヨイちゃんは数日分の食料を買い込むということが思いつかなかったのだろうと予想する。あれ?じゃあこの人こんな体調であの濃厚味噌ラーメン食べたの?

「真宵ちゃんがラーメン買ってきてくれたんだけど、ノド通らなくて」

でしょうねえ!こんな深緑色の人に食べさせるものじゃないよ!あのラーメンは元気な時に食べるのが美味いのだ。

「と、とりあえず、ゼリーとか食べてください」
幸い店内は暇だったので、ヨロヨロ歩く成歩堂さんの近くでサポートをする。ゼリーに、おかゆに、飲み物、そして冷えピタ。最近のコンビニはすごい、簡単な薬まで売っているのだ。お節介かと思いつつカゴに風邪薬をぶち込む。とはいえただのコンビニなのであの有名なカゼゴロシZとかは置いてない。バフィリンである。

「ありがとう…うつしちゃうよね、ごめんね」

そんなぶるぶる震えながら謝られても。お会計をしておつりをわたして、ちょっとの距離だけど入り口まで商品を持って見送りをした。





「名前ちゃん、おはよう」
ぴろりろりーん、いらっしゃいませー
今日何十回目かのやりとりのあと、現れたのはいつも通りのなるほどさんだった。どうやら治ったみたいだ、よかった。彼が来てから2週間くらい経ったかな?よっぽどタチの悪い風邪だなあ。

「おはようございます、良くなったみたいでよかったです」
「いやあホント、あのときはごめんね。これ、あげる」

ぽい、と渡してきたのはなんか高級そうなお菓子の箱。思わず押し返すと、それを上回る力で強引に持たされた。

「受け取ってほしいんだよ、お菓子とか全然わかんないから真宵ちゃんにきいたんだけどね」

「ええ、わざわざすみませんほんと…」

じゃあ、今日はちょっと立て込んでるんだ。なんていってにこやかに去っていった。まあまあのサイズのお菓子を持ったまま立ち尽くすわたし。せっかくいただいたんだし、バイトのみんなで美味しくいただくとしよう。わたし何もしてないのに、何倍返し?弁護士ってすごいなあ


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