今日の業務はいつも通り多くて、裁判や次の事件の整理、受け持った書類を捌いたりと大変だった。思うところがあるため、ムリにでも業務を詰め込んだのかもしれない。

彼女になんと言えばいいのだろう、と考え込む。自分の口下手さにほとほと呆れかえる。そうして重たい足取りで家路に着く。


がちゃりと扉を開けると、なぜか玄関に件の彼女が立っていた。たまらずムグッと声が漏れた。

「苗字くん、どうしたのかね」
「あの、御剣さん…」

最初の目線はこちらに向かっていたのに、2秒後には己の足元を右往左往。何か話したげなのは誰が見てもアキラカなのでじっくりと待つ。


「その、わたし、せっかく御剣さんが心配して優しくしてくれたのに、なにかウラがあるんじゃないかとか思っちゃって」

「今までわたしなんかのこと家に置いてくれてとっても良くしてくれたのにそう思っちゃった自分がすごく嫌で、ほんとに、ごめんなさい」

もちろん彼女が私に何かいやなことを言ってきたわけではない。けれどこの少女は少しでも私のことを疑ってしまったことに対してこんなにも深く反省しているのだ。モチロン、謝ることではない。私は彼女のことをほとんど知らないが、それでもあのアザや境遇を考えるとそうなってしまってもムリは無いのだ。こんな、数ヶ月生活を共にしただけの人間に。


「苗字くん…まったく謝ることではない。むしろ、こちらが謝るべきなのだ」

深々と下げていた頭が飛び跳ねるかのように上がった。

「君はまだ若いし、女性だ。どんな理由であれ私のようなまったく年上の男と数ヶ月も生活しているのだ。まだ十分な信用に値するとは私も思っていない。」

「そんな、御剣さんはとても良くしてくれて、」

「それでも、なのだ。無意識に心に蓋をすることはよくある、仕方がない。大人としての配慮に欠けていたと思う。すまない」


先ほどと打って変わって、私が頭を下げると、彼女はあわてて細腕を伸ばしてわたしの腕を掴んだ。


「やめてください、わたし、御剣さんにとても感謝してます。信頼、してるんです」
信用ではなく信頼といったのは、彼女の気遣いだろうか。
しばらく2人で見つめあって、ふ、と彼女が笑った。


「じゃあ、仲直り」
「ふ、そうだな」
仲直りなんて、こんなにも生きてきて久々だ。懐かしい響きにこちらも笑いが漏れる。彼女は私の手を引いて、テーブルの前に座らせた。嬉しそうに紅茶の準備をし、簡単な茶菓子を準備して2人で飲んだ。そこにはもう前感じた溝は、あまりなかったと思う。そう思いたい。

熱い紅茶を冷ましながら飲む目の前の少女をみて、これからはこの子にとって信用に足る人物にならなければいけない、と心の中で誓った。


top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -