強い衝撃と背中に感じる痛み、そして目の前に広がる深緑。いたい、というわたしの声に被せるように聞こえる大声

「おう!名前!」

声でか、と思わず耳を塞ぎたくなる少し掠れた高めの声。あーもー、またこいつか。

「ちょっと七松、なにしてんの?痛いんだけど」

目の前の深緑と見知った土の香りとすこし汗の香りが混ざったような、そんな香り。どう考えてもこのデカい物体は忍たまとくのたまという違いはあれど同じ学舎で学ぶ同級生、七松小平太そのひとだ。

まじで声でかい、うるさい、てか重い、そして痛い。
にかっと笑ってその場をどかない七松。いやどけよ。ほんとこういう何考えてるかよくわかんないところが苦手だ。こういうときはおおよそ何も考えていない。

「いま仙蔵に追われててな!」

ばたばたと七松の後ろから誰かが駆けずり回る音が聞こえる。今度はなにやらかしたんだよ。喧騒が近づいてきたところで、急に浮遊感。気づけば薄暗い、ここは梁の上?この一瞬でわたしもろとも上に飛び上がったというのか。とんだ馬鹿力だ。

「ちょっと!なにしてん、」

の、と続くことはなく大きなごつごつした手で口を塞がれた。鼻まで覆うな息ができない、てか土臭い最悪。ちらりと下を見るとすんごい形相をした立花が走り去った。どうやら七松の危機は脱したようらしい。代わりにわたしが危機に晒されているがな。


「っは、本当なんなの?なにやらかしたわけ?」
そのでかい手を無理やり解いて睨みつけながら七松に問うと、たっぷり3秒間考えて、

「ま、細かいことは気にするな!」
とにっかり笑うのだ。こいつ説明を放棄したな。いや馬鹿ゆえに説明ができなかったのもしれない。どちらにせよ七松のすることだ、絶対にしょうもない。

「はあもう、降ろしてよ」

もう最悪だよ、せっかくの休み時間なのになんでこんな目に。くのたまと忍たまは関わることなんて滅多にないのに。なぜかこの七松小平太は入学してから定期的にわたしに災難を振りかけるのだ。勢いよくぶつかられた衝撃でお尻と背中と後頭部は痛いし、ちょっと吹っ飛ばされたから手首の辺りを擦りむいた。摩擦の擦りむけって結構痛いんだぞお前知ってるのか。傷に気づくとおもいだしたかのようにじんじんと痛みが広がる。目の前の大男はいまもなおにっかりと笑っている。


「悪いがまだ近くに仙蔵がいる!降ろすのはその後だ!」
「なんでわたしまでこんな梁の上にいるわけ?」
「私がそうしたかったからだ!」

どーんと効果音がつきそうなくらい気持ちよく言い切った。本当よくわからない。まあでもわたしの体はしっかり七松が固定してるし、落ちることはないだろうが。
しばらく目の前の体温と土の匂いと感じて、また浮遊感。七松は目にも止まらぬ速さで廊下を走り抜ける。わたしを小脇に抱えて。

「ちょ、ま、はや、」

痛みと振動でいよいよぐわんぐわんと目が回ってきた、と思ったのも束の間、減速してぽんっと七松にしては優しく廊下に降ろされた。

「すまんな!伊作に手当てしてもらえ!」

そう言うや否や、いけいけどんどーん!と叫びながらぴゅーっと走り去ってしまった。遠くで立花の怒号も聞こえる。呆気に取られてしばらく固まっていると、背中の戸が開いた。振り返ると心配そうな顔の善法寺。どうやら、七松は医務室の前で降ろしてくれたらしい。わたしが擦りむいたこと、知ってたのか?これまた呆然としながら善法寺に傷薬を塗ってもらう。

「小平太、あんなだけど苗字さんのことは気にかけてるよね」

いつもは誰か巻き込んでもお構いなしなのに、という善法寺のつぶやきをなんとなく耳にしながら、今までのことを振り返った。
たしかに、七松はくのたまのなかでやけにわたしに迷惑をかけてくるけど、その分こうやって医務室に連れていってくれたり、人づてだったりもするけれど大丈夫だったか?なんて心配してくれることが多い。…というか、毎回かもしれない。

「……もしかして七松に気に入られてる?」
善法寺のにっこり笑った顔を見て、全てを察した。
うそでしょ、どうやらわたしの災難は卒業まで続くらしい。


top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -