いつかの昼12時半、この時間はお昼時も相まってこんなしがないコンビニでもちょっとした行列が連なる。だがしかし今日はバイトが私を含めて3人もいるし、店長だっている。いわば最高のシフトなのだ。今この店に死角はない。
捌いても捌いても連なる行列を死んだ魚のような目で業務を続け、ようやく列が落ち着いた頃には時刻はすでに13時50分。こういうときの時間はほんとうにすぐ過ぎるのになあ。
私と同じく死んだ魚のような目で働いていたレジ友の佐藤くんと品出しの鈴木くんを尻目に、ふう、と長いため息をつく。働く社会人が多いところのコンビニって嫌だなマジで。辞めようかな。辞めないけどさ。

ぴろりろりーん

店内に響いたまぬけな音楽に、嘘だろ?まだピークが来るのか?おやつピークか?と店内4人が体をこわばらせながら入口を見る。
そこにいたのはこれまた珍妙な格好をした女の子で。長くて綺麗な黒髪を頭のてっぺんでまん丸のお団子にして、浴衣?着物?かわいらしい服装に似つかわしくないデカめのネックレス。なんだっけあれ、勾玉?お顔はとても可愛らしいのでいよいよコスプレか?撮影なのか?と辺りを見渡してしまった。なんでこのコンビニは最近になって奇妙なお客さまばかり来るんだろう。まだハロウィンには早いのだ。

「いらっしゃいませー…?」

女の子はキョロキョロと店内を見ている。あれか?もしかして貴族さんみたいにコンビニ知らないとか?ちょっと浮世離れしてるしありえる。

「えーっと……どこだろ」
「あの、何かお探しですか?」

たまらず声をかける。ここで注意喚起しておくが、しがないコンビニの店員は例えお客さまが何かを探してるようであっても自分から何かお探しですか?と声をかけることはあまりないのだ。ただ貴族さんといいこの着物ちゃん(いま付けた)といい、どうしても声をかけたくなってしまったのだ。

「あ!あの!なるほどくんに頼まれて…じゃなくて!なにか栄養のあるお昼ゴハンを探してるんですあたし!」

ぐわっと勢いをつけて言われてしまい、思わずこちらが萎縮してしまう。どうやらおつかいらしい。こんなコンビニも知らなそうな女の子ひとりでおつかいに行かせるな。どうやら着物ちゃんはお昼ご飯をご所望の様子。…あれ?なんか聞き覚えあるワード入ってたような?

「はあ、栄養のあるお昼ご飯…お弁当コーナーはこちらですよ」

着物ちゃんを案内すると色とりどりのお弁当に目を輝かせていた。ふっ運がいいな、あの地獄の昼時ピークを過ぎてスカスカのお弁当ゾーンをあの鈴木くんが追加してくれたのだよ。ナイス!とその辺にいる鈴木くんに親指を立てる。彼もかなり自慢げだ。

「わあ!こんなに色々あるんだ!……あ!これにしよう」

と、彼女が手に取ったのはかの有名な山のや監修味噌ラーメン。ほほうお目が高い。そのラーメンはわたしも大好きである。栄養のあるご飯とはちょっとズレてるような気もするが。
続いて彼女は思い出したかのように苺ミルクを持ってレジに来た。

「2点で710円です。あたためますか?」
「あっお願いします!」

おつかい先の相手のものであろう男物の財布から1000円を渡される。なるほどくん……苺ミルク……

「290円のお返しです。…あの、もしかしてなるほどさんのお知り合いで?」
「あれ?なるほどくんのこと知ってるの?あたしなるほどくんに頼まれてゴハン買いにきたんだ!」

わお、予想はしてたけど世間って狭いなあ。着物ちゃんになるほどさんと顔見知りなことを伝えると、花が咲いたような明るい笑顔で喜ばれた。

「じゃああなたが名前ちゃんね!あたし真宵!」
「そう、みたいです?」

よろしくー!と握手を求められ、手を握る。なんかよくわかんないけど可愛い子と仲良くなった。うれしい。着物ちゃんもといマヨイちゃん、かわいい。

あたためたお弁当を渡すと急がなきゃ!じゃあまたくるね!といってどたばたとコンビニを去ってしまった。嵐のような女の子だ。


「……佐藤くん女の子の友達できちゃった。どう?うらやましい?」

佐藤くんはわたしをちらっと一瞥すると、「ハイハイうらやましいー」と棒読みしてさっさと上がってしまわれた。うん、歳の近い同性の友達っていいな。てかなるほどさんって奇妙な友達しかいないの?


top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -