空はいい天気なのに下は瓦礫の山、そこにわたしは一人たっていた。
いや、一人というか、一人と一匹…?
私の目の前にはなんだかよく分からない気持ち悪い怪人がいる。これは絶好のチャンス、今日は死ねる。周りには人っ子一人いないしこの怪人なんだか強そう。よし、いける。

確信したわたしは自分から怪人に歩み寄る。そいつはやっぱりすこしびっくりしていたけど、すぐにニタアと気持ち悪い笑みを浮かべて襲いかかる体制に入った。

ここまで順調、今日、わたしは死ねる。
そう思ったのと同時に怪人が飛びかかるのが見えて、すっと目を閉じる。

刹那、耳に響くのはけたたましい轟音。

ああ、来てしまった、やはりわたしは死ねない。
轟音と突風に吹き飛ばされて、わたしは瓦礫の山の下に尻餅をついていた。下に影ができ、見上げるとやはり、

「ったくよー、おめーいい加減自分から死にに行くのやめろよな」
ワンパンすんのも面倒なんだよ、とマントの汚れをはたくサイタマに、ああ、まただと思ってしまう。

「サイタマせんせー、」
今の私は相当変な顔をしてるだろう。せっかくこの人が来ないような薄暗いところまで来たのに、また死ねなかった。

「大体よ、なんでそんな死にたいわけ?友達いんだろ」
サイタマは苦虫を噛み潰したような顔をして言う

「だって、この世界つまんないんだもの」
そこかしこで奇妙な怪人がうろうろしてるわ、家屋は待ったなしに破壊されるわ、この年まで生きててもとくに楽しいことなんてなかった。サイタマの言うように友達と呼べる人たちは確かにいるけど、早いところ死にたい。多分自分より悲惨な生き方をしてる人からしたらわがままとか、そんなことを思われるのだろうけど。

「怪人がイヤならZ市にいなきゃいいだろ?怪人がいるから嫌なくせに怪人に殺されたいとかお前ちょっとおかしいだろ」
髪の毛のない寂しい頭をがしがしと掻くサイタマせんせー。頭皮痛くないのかな

「お前今すげー失礼な事考えてただろ」
じろり、といつものやる気のない目を細くさせる。そうしてサイタマせんせーは座り込んでる私の腕をつかんで立ち上がらせた。

「ねえーサイタマせんせー、わたし、こんなふうに壊れてくのが嫌なんだよね。」
そう、世の中にはヒーローとやらがいて、怪人もいて、そいつらはいつだってものを壊していく。ヒーローはみんなを助けてくれる存在だけど、どうしたって近くのものは壊れてく
もはやバラバラになってしまったちかくの屋根瓦を手に取る

こんな硬いものが簡単に壊れる世界にいたら、自分の存在がより陳腐なものにみえる。
所謂、ひねくれ者って奴だ。わたしは。

ちらりとサイタマせんせーを見ると、それはもう微妙な顔をしていた。お前、本気で言ってんの?みたいな、そんな表情だった

「…あのよー名前、壊れないものが好きなのか?」

よくわかんねー、と言いながら両手を頭の後で組んでわたしに背を向ける

「そうだよ、わたし、壊れないものが好きなの」
簡単に死ぬようなわたしなら、早く死んでしまいたい

小さくつぶやいたその言葉を聞いて、歩いていたサイタマせんせーは足を止めた。


「ね、だからさ、サイタマせんせーがわたしを殺してよ」
自嘲気味に笑いながら私が言うと、サイタマせんせーはいきなり大声を上げた。

「ぜっってーーやだ!」
それはもう驚いた。いきなりだったのだから。
わたしに背を向けたまま、青空に向かって吠えてるようだった

「お前がどんだけ怪人に襲われに行こうとも、ぜってー助けに行ってやるかんな!」
ぐるっと私に向き直りびしっと人差し指を向ける。その綺麗なこめかみ付近には青筋を現しながら、


「あ、あとよー、」
ずかずかと私と距離を縮めてくるサイタマせんせー。
ちょっとこわい。

「な、なに」


「俺、わりと壊れねー自信あるけど?」
わしっと片手で私の頭を掴んでそのまま髪を乱される
その、わりとと言いながら自身に満ち溢れた顔を見て、私も笑ってしまった


「サイタマせんせー、ばかじゃないの?」

いつもわたしを助けるだけだったサイタマせんせーの口から出た言葉が、わたしの中の仄暗い感情をすぐに溶かすようで、心地よかった。


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