≠監督
×オチなしヤマなし





背が高い。顔がかっこいい。みんなの世話をするのが好き。料理が得意。手芸も得意。おまけに誰にでもやさしい。そんな悪いところなんか一つもない人。それがわたしがお付き合いしている人、伏見臣くんである。ほんとう、なんでお付き合いしてくれてるのかわからないってくらいに彼は、出来すぎている。


「臣くん、」

「ん?…ああ、ちょっと待ってな」

ひとめ見ただけでわたしの言いたいことを汲み取ってくれる、すごいひと。
臣くんはやさしい。初めて会った時もやさしかった。おんなじ大学で、新歓の時にわたしが勧誘に埋もれて困っていたところをするりと助け出してくれた臣くん。ああなんか、初対面からイケメンすぎる。そんな出会いが2年半前。お付き合いしたのは1年前。ある種事故とも言える告白だったけれどふわりとやさしく抱きしめて、俺もだ、なんて言ってくれた。思い出す度ぎゅっと胸の奥が苦しくなる。

「ほら、名前」

作ってくれた料理を置いて、大きく腕を広げてくれる。わたしはその腕に飛び込む。あー、幸せだ。臣くんのこの腕の中がいちばん好きだ。ほんと、なんでわたしと付き合ってくれてるんだろうか。いづみさん、美人なのにな。くるくると思考を巡らせていると、わたしの雑念を悟ったのか臣くんがわたしの頭のてっぺんのもう少し上で心配そうに訊いてきた。

「名前?どうしたんだ?」

うしろでは臣くんが作ってくれたキッシュがいい匂いを放つ。きゅるるとお腹の音が鳴る。それでもなんとなく、答えるのは億劫だった。あーわたしいまめんどくさいなーなんて思いながら、きゅっと臣くんの服を掴む。

「よしよし」

小さい子をあやすみたいに臣くんの大きな手のひらがわたしの頭を右へ左へ。何歳児だわたしは。
臣くんはかっこよくてすごく素敵だから、もちろん大学にだって敵は多い。わたしが彼女なのを疎ましく思う人もいる、と思う。それでも臣くんがいまもまだわたしの横にいてくれている理由はなんなのだろう。考えたって仕方が無いな。不毛だ、と口に出す。臣くんはわたしの独り言を何を言うでもなく聞き流して、頭を撫でる速度を遅くする。安心する速度だ。かっこいいなあ、ほんとうに。海に投げ込まれた赤子よろしくわたしは臣くんの優しさ、すべてに溺れそうだ。なんて、キザな言い回しだな。あーでもだめだ、臣くん、かっこいい。静かに臣くんを見上げると、二つの眼がきちんと私をとらえていた。安心する顔で、笑いかけてくれた。「臣くん好きだなあ」と零すと、すっと目を細めて、「俺も名前が好きだなあ」なんてわたしの真似をする。全然似てないよ。ぎゅっと締め付けていた胸の痛みは、いつの間にかなくなっていた。





---
おみみが好きすぎてだめだなあって話


top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -