「うん、それでね、良かったら話してくれないかな」

至極優しく、わたしを安心させるように問いかけてくる成歩堂さん。糸鋸刑事さんが連れてきたのだ、信用は、できる。けれどほぼ初対面の人に話すべきことではないことはわかっていた。そんなわたしの気持ちを汲み取ってか、ムリにじゃなくていいんだ、とまた優しく声をかけてくれる。話したい内容では、決してないと思う。しかし、いつかは耳に入ることだろうしそれよりもわたしが言わないことでまた御剣さんに余計な気持ちを持たせるのはすごく嫌だった。おそるおそる、わたしは成歩堂さんの黒い瞳を見つめる。

「まえ、の…保護者にされたんです」

自分でも存外情けない声が出た。なにを、とは言わずに静かにお腹のあたりの布地をめくる。突然の行動に3人は少し驚いたが、わたしのこれを見てやっぱり顔を顰める。

「ヒドいッス…」
「これ、随分前のものもあるようだけれど」

わたしは大雑把に話した。昔虐待を受けていたこと。御剣さんにお世話になるまでの経緯。そして先日、この醜いあざたちを御剣さんに見られてしまったこと。優しい言葉をかけてくれた御剣さんに、少しでも拒絶の色を見せてしまったこと。
大して面白くもない話を、成歩堂さんは真剣に聞いてくれた。なんだかそれだけで暖かかった。


「…そうか。御剣は、きっと君を傷つけたと思ってるよ」

「…え、」
「たぶんアイツのことだから、軽率なことを言ってしまったなんて思ってるんじゃないかなあ」

そんなこと、と言いそうになってぐっと堪える。わたしは傷ついてなんかいない。むしろ、傷つけたのはわたしだ。御剣さんの優しさに触れていたにも関わらず拒絶してしまったのはわたし、なのに。

「名前ちゃんのこと、心配してたッスよ!」

八の字にさせた眉毛を、さらに下げる。

「でも、御剣さんにはたぶん嫌われた、」

自分で言ってて、苦しくなった。呼吸がしづらかった。薄く貼った水の膜が零れないように、下を向く。すると、いままでじっと聞いていた真宵ちゃんが突然声を上げた。

「そんなわけないよ!あのヒトは、そんな簡単に名前ちゃんを嫌わないよ!」

ふたりのこと、まだ全然知らないけど…と申し訳なさそうにいう真宵ちゃんに、ちょっとだけ心が軽くなる。

「まあ、そうだろうね。御剣はそんなヤツじゃないさ」

賛同するように、成歩堂さんや糸鋸刑事さんも続く。でも、そんなこといったって。嫌な気持ちにさせたのは事実なのだ。ぎゅう、と手のひらに力を込める。

「じゃあさ、御剣にいいなよ、名前ちゃんが思ってること。大丈夫、アイツは信用できるヤツだろ?」

そうやって白い歯を見せて笑う成歩堂さん。人の言葉はこんなにも影響力をもつ。気づけば3人はニコニコと笑っていた。怖くないよ、カオは怖いけどね。と言って笑う成歩堂さんに、すごく安心したのだと思う。


「今日、帰ってきたら、いう」

それは自分自身に言い聞かせるように、自分に約束を取り付けるように言った独り言だった。


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