「困っちゃうねえまったく」
「大変そうですねえ」

土曜の朝7時前、ただいま私は常連さんの一人である常世田さんと談笑中です。いつにもまして早い時間に、それはもうたいそう疲れた様子でしたので話を聞いたところ、やはり最近事件が多発していて大変なのだそうです。あ、ちなみに常世田さんは検事さんらしい。30代半ばのそこそこダンディな顔が疲れきってます。なんてことだ。どおりでここのところ警官さんやらが多く来店するわけだ。青ざめた顔でエナジードリンクを買う常世田さんに同情する。

「でもねウチの検事局には天才がいるからさ」
「天才ですか」

不意にかけられた話題で気になるワード。天才検事さんというやつか、すごく気になる。オウム返しをすると常世田さんはそれはもうキラキラした顔で語り始めた。

「いやあ彼はね、すごいんだよね。僕よりずっと年下なのに毎回有罪にしちゃってさ、尊敬するよ」
「へえ毎回…、すごい人もいるものですね」
「そうなんだよ。まあ、見た目がなんかすごいし目つき悪いから一見するとコワイけど」

嬉々とした表情で語っていらっしゃる。本当に尊敬してるんだなあ。見た目の話をするからなんとなしに見てみたいですねーといったらなぜかすごい顔をして「いや多分、名前ちゃん引くよ」と言われてしまった。引く見た目って相当ですぞ。

「彼ねえ、なんかすごい…一般人じゃないんだよね」
「どういうことですかそれ」

顎をさすりながら真剣な顔で考える常世田さん。一般人じゃないとは…まさか芸能人?考えてることが分かったのか、すぐに「まあ、芸能人ってわけではないよ」と言われた。それならば一般人じゃないとは一体…。

「なんか王宮に住んでそうだよ。まあ、僕としてはそこもかっこいいけどさ」

王宮。というワードを聞いていつの日かのお客様を思い出す。貴族さんも貴族さんだし王宮住んでそうだなあ。それにしても王宮に住んでそうな検事さん。想像しようとしても全くできない。相当個性が強いのだろう。未知の人物である。けど、常世田さんがここまで褒めてるんだからきっとすごいんだろうな。
いつの間にか結構話し込んでしまっていたらしく、常世田さんはちらりと時計を気にするとさっと青ざめた顔になった。うわ、申し訳ない。

「すみません、話し込んじゃって」
「いいよいいよ、僕が一方的に喋ってただけだしね」

それじゃあ…行ってくるよ。とすごく死にそうな顔で常世田さんは出ていってしまった。すごく…遠い目をしてました。
入れ替わるように入ってきたのはなんとなるほどさん。最近ほんとによく来るなあと思いながらもいらっしゃいませとあいさつをする。もちろん返ってくるのは爽やかな笑顔。

「おはよう苗字さん」
「おはようございますなるほどさん、検事さんは個性豊からしいですよ」

常世田さんは常人だけど、王宮に住んでそうな方がいらっしゃるくらいだ。世の中って広い。突然のなんの脈略もない話になるほどさんは目を丸くする。

「…たしかに、ぼくの知ってる検事も個性豊かな人ばっかりだな」
「や、やっぱりそうなんですか」

なんだなんだ、検事局ってそんなところなのか。今度はこちらも目を丸くするとなるほどさんが詳しく話してくれた。どうやらなるほどさんの知り合いには地震が苦手な方とムチをふるう女性がいるらしい。前者はちょっとかわいいけれどムチってなんだ。…ムチってなんなんだ。

「いやあ、あのムチは痛いね」
「受けたんですか?!」
「はは、まあ、色々あってさ」
「た、たいへんですね…」

ムチの女性の話をする時だけなんともいえない顔をするなるほどさん。あ、この顔、さっきの常世田さんみたいな顔だ。やっぱり検事局って色々とすごいんだなあ。貴族さん(仮)に地震が苦手な人とムチをふるう女性。始めと終わりが強烈すぎて地震が苦手が薄れてしまってるよ。浮いてるよ。やはり未知の人物、いや、世界である。…ムチってほんとになに?



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常世田(とこよだ)さんは常識人で苦労人タイプです


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