さてその貴族さんが入店なされた次の日、土曜日14時過ぎにはなるほどさんがコンビニに出向いてくださいました。いらっしゃいませと声をかけるとやはり爽やかにやあと言ってくださる彼はとても目の保養だ。今日は何を悩むのかと目を向けていたら何かを見つけたかのようにこちらへ向かってきます。もしかして寝癖がついてるのかもしれない。くしゃりと後ろの髪を触ってみても全然わからない。まあ、どうやら寝癖なんかではないらしく、その視線は私の胸元へ向かっていた。…あ、別にいかがわしい視線ではないです。

「苗字さん、トノサマン好きなの?」
「え?ああ、なんといいますか、昨日貴族さんがいらっしゃいまして」

やはり見つめていたのはこの、ちょこんと名札を彩るトノサマンらしい。思わず心の中で読んでいたあだ名で言ってしまい、少し恥ずかしくなる。

「貴族さん、?」
「い、いえその、貴族みたいな方といいますか…はは」
「…そうなのか」
「なるほどさんも好きなんですか?」
「いやあ、ぼくはあんまり詳しくないけどね、ちょっと知り合いにいるんだよね」

ほほう、なるほどさんのお知り合い。なかなかやり手の方なんだろう。有名だなあトノサマン。などと考えていると以前来た小さなお客さんを思い出した。世間話のついでになるほどさんにも話してみよう。

「そういえば先日、全身蛍光色でトノサマンに身を固めた男の子がいらっしゃいました」
「……へえ」
「大きなカメラを持って、トノサマンコラボのチョコまんを持って『オレが1番のトノサマンファンなんだぜ!』なんて言ってましたよ」
「……」
「可愛かったですねえ。……なるほどさん?」

あれ、おかしい、なるほどさんの反応が止まってしまった。おもしろくなかったかな。なるほどさんは汗をにじませながら目は半開き。まさに、うわあ…といった表情をしていたので驚いた。なるほどさん、意外に表情豊かだ。

「…それ、ぼくの知ってる子かもしれない」
「ええ!そうなんですか?」
「ああ、ちょっとある事件でね」
「じ、事件?あんなに小さい子が…」

最近の世の中は流れが変わっているらしい。ひええ、あんな可愛い子が事件に関係しちゃうなんて。イヤな世の中だなあ。私の考えていることが見抜けたのか、はははと笑われる。

「まあ、そんなコト滅多にないさ」
「で、ですよね…」


ふと、今日は何を買うのか気になった。ので、なるほどさんに聞いてみると、「ああ、特にないんだ。ごめんね」って…特にないのになるほどさんは何をしに来たのだろう。頭にはてなマークばかり浮かべていると、不意に子どものようないたずらっぽい表情をして、「苗字さんに会いに来たんだ」なんていうものだから私の動きが止まってしまった。仕方の無い事だと思う。

「えっと…?」
「はは、まあ、事務所がヒマってだけなんだけどね」
「そ、そうでしたか」

な、なんだ。ただからかわれただけらしい。心臓に悪い。なるほどさんみたいな爽やかイケメンに君に会いに来たんだなんて言われたら世の中の女性はイチコロなんじゃないのだろうか。いやはやあぶない。なるほどさん、やりおる。

「でも何も買わないのも悪いね」
「いやいや、そんなこと」
「うーん、そうだなあ…あ、じゃあこれで」
「あ、はい……1点で118円になります」
「はい、ありがとう」

なるほどさんは近くにあった苺みるくを買って、袋のまま私にずいと差し出してきた。…あれ?たった今袋に入れたのに、なにか不備があったのだろうか。なんとも不思議な光景に呆然としていると、なるほどさんが再度笑って「ぼくからの差し入れってことで」…ええ、イケメンすぎる。

「え、あの」
「まあまあ、受け取ってくれよ」
「…ありがとうございます」
「いいさ。がんばってるからね」
「とんでもないとんでもない」

おとなしく受け取った苺みるくを大事そうにしまい込む。やった、バイト終わりに飲もう。突然の差し入れにウキウキしながらなるほどさんと話し込む。学校の話、なるほどさんの友だちの話。バイトのこととかいろいろ。途中でお客さんが来てしまって、結局なるほどさんはそのまままたねと帰ってしまった。…いやあ、なるほどさんは優しい。知らない人からものは貰うなって言うけれど、なるほどさんは間違いなくいい人だからノーカウントだ。知り合いだし。うんうんとひとり納得して早めに上がった夕方4時に、貰った苺みるくを飲みながら揚々と家路につくのだった。


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