「いらっしゃいま…」
「やあ、どうも」
「なるほどさんですね、こんばんは」
「こんばんは」
打って変わって月曜日の朝9時。白い灯りの下、爽やかに光る青いスーツが今日もいい感じですね。名前を呼ぶとなるほどさんはちょっと嬉しそうに片手をひらりと上げる。ううん、爽やかだ。
なるほどさんはそのまま飲み物コーナーに向かいます。ちょうと品並べする予定だからわたしも後ろをちょこちょことついて行く。
「うーん、苺みるくとフルーツミックス…」
はて、先日はコーヒーだったのに今日は甘いもので攻めるらしい。小さく聞こえたつぶやきにくすりも笑いがもれる。
「苗字さん、どっちがいいと思う?」
「えっ」
「苺みるくとフルーツミックス」
「そうですねえ…」
急にふられて驚いたが、わたしも足を止めて考える。苺みるくは王道で美味しいし、フルーツミックスを捨てがたい。でもなるほどさんは前苺ロール買っていたから、今日はフルーツミックスがいいかもしれない。とひとり納得すると「フルーツミックスがいいですね」と笑いかける。よしわかったと言わんばかりににっこり頷くなるほどさん。うーん、眩しい。
「苗字さんは毎日バイト入ってるの?」
「いやいや、大学は受かりましたし自由登校なのでバイト入れてるだけですよ」
「へえ大学かあ、どこに行くの?」
「勇盟大学ですよ、近くの」
「ぼくもそこ出身だよ」
「えっそうなんですか?先輩ですね」
たわいもない会話で盛り上がりながら一緒にレジまで向かう。108円ですというと今日はぴったりで、と108円きっかり出してきた。ふむ、なるほどさんは勇盟大学なのか。
「なるほどさん、成歩堂法律事務所の方ですか?」
「そうだよ、一応所長ってカンジかな」
「お若いですねえ」
「苗字さんにいわれてもなあ」
ははは、と髪を撫で付けながら笑うなるほどさんはとっても若く見える。20前半といったところか。この若さで所長なんて、そうとう頭がきれる人なんだろうとひとりで感心していると、「今日はお客さんあんまりいないね」と頭上から声がした。そういえば、6時からシフト入ったけどお客さんがほとんど来なかった。いまもなるほどさん1人きり。なかなか珍しい。
「ほんとだ、どうしてでしょうねえ」
「うーん、最近事件多いからね、大変なのかな」
「ああ、警察署なんかも近いですしね」
まあぼくに仕事はあんまりないんだけどね、と軽口を叩くなるほどさん。きらりと光った弁護士バッジに目がいった。
「それじゃあ、また来るよ」
そういって爽やかに外へ向かうなるほどさんに慌ててありがとうございましたと言う。帰るときまでなんだかスタイリッシュだな。かっこいい。しばらくなるほどさんの出ていった方を眺めていると、後ろから店長がぬっと出てきた。
「名前ちゃん、成歩堂くんと仲良くなったのかい?」
「うわっ店長」
「いやあ僕はいいと思うよ、成歩堂くん」
「はあ…」
「ふっふっふ」
なんとも妖しげに笑うもういい歳の店長さん。なにがいいと思う、なのか。意味深に笑うあたり、まあ、そういうことなのだろうと思うけれど…。うんまあ、なるほどさんはすごく爽やか。眩しい。そりゃあもうキラキラしてる。
「いいねえ青春」
「店長仕事してください」
いまだにやにやと笑い続ける店長をわたしは一蹴した。
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