『なに…これ──…』

見回りから帰ってきた私は目の前の光景に目を見開いた

いや、
見開かずにはいられなかった


「いってきます」と出た屯所と、あまりにも違いすぎたから。



そこら中に散乱する、

物と血と

仲間


苦しそうにうめき声をあげている者もいれば、ピクリとも動かない者もいる。

倒れている人の中には、女中さんもいた。


助けて、誰がやったのか突き止めるべきなのに

ショックと混乱が体と思考の自由を奪い、ただただその光景を見つめることしかできなかった。


……こんなこと一体誰が?何のために?

膨れ上がる憎しみで、ギリギリと刀の柄を握り締めれば、


ガシャーンッ!!


体がビクつくほどの激しい物音がし、フリーズしていた意識が一気に覚醒して、気づけば物音のする方向へと全力で走っていた


……音のした場所は、

近藤さんの自室──−




『近藤さん!!!』


大声で近藤さんの名前を呼びながら、近藤さんの自室に飛び込むように覗きこめば、

そこは私の知る近藤さんの部屋ではなかった。



揉み合ったのか、荒れ果てた自室に、鼻をつく程の鉄のニオイ


倒れ込む近藤さんの隣には、




───黒い隊服を真っ赤に染めた副長がいた。



『…副……長…?』


副長の手には、しっかりと血にぬれた刀が握られていて、刃からぱたりぱたりと鮮血が滴り落ちていた。



………どういう、こと…?


何で副長が

何で何で何で


あの、一番といっても過言じゃないほど真選組を大切にしていた土方さんが真選組を壊したの?

大事で大事で仕方ないはずの近藤さんを手にかけたの?


───仲間を殺したの?


頭に浮かぶ裏切りや、絶望の言葉と、目の前の光景がのみこめず、ただただ立ち尽くす事しかできなかった。



「…やっと帰ったか、尚」


不意に名前を呼ぶ声に、泣きそうになった。


その声が、あまりにもいつもと変わらなさすぎて───



「お前と総悟で最後だよ。まだ総悟は帰らねェか。…ったく、ザボんなつってんのにテメーら二人は。何度言ったら聞くんだ?」


いつもと同じ。

サボリ魔の私と総悟を叱る口調



……どうして。

そんなに普通にいられるの?



『………で…』

「?」


『なんで…っあんなに大切にしていた真選組と近藤さん、仲間を壊して、なんで…


そんなに普通にしていられるんですか!!』


話している言葉の内容から、間違いなくこの人がやったんだと。

確信してしまった。



今だって心のどこかで願ってる。

みんなを壊した犯人が副長じゃないってことを──



けれど、



「腐った組織を壊して何がいけねェんだ?」


私の願いはたった一言で叶わぬものとなる。


昨日までの副長はいないのだと。
この目の前の男は、もう真選組鬼の副長ではないのだと。


私が、戯れて、憧れて、焦がれて

──恋をしていた土方十四郎は、もういないのだと。




「…尚。今の幕府のせいで異国の天人がどんだけ好き勝手に暴れていると思う?

目に余る行動も、幕府は見てみぬふりだ。


それをいいことに暴れまわる天人は増え、被害を受けてんのはこの国の人間なんだよ。


そんなクソ以下の幕府を守る真選組も所詮は幕府と同じ。自分の利益しか考えねェ。それを腐ってる以外何て言うんだ?それを壊して何が悪い?」


淡々と話す副長の口調は、どこか憎しみに満ち溢れていて、痛い程の殺気が私を襲う。



「俺は幕府を許さない。それに関わる邪魔するものすべて、俺の敵だ」


『………あなたを…

救って、これまで戦ってきた仲間や近藤さんもですか』


副長の笑った顔、怒鳴る顔が蘇り、涙が溢れそうになるのを必死でこらえ絞り出した私の声は今にも消えそうで。



「言ったろ。全てだ」


副長は私に興味が無さそうにそう言い捨てながら、刀をひと振りした。


ビシャッと振り落とされた血の音を聞きながら、ただただ副長を見つめることしかできなかった。

畳の上に付いた仲間の、近藤さんの血が混ざりあったソレはドス黒く濁り、返り血を浴びた彼の隊服はそれ以上に真っ黒だった。




「…なァ尚」


不意に呼ばれた名前に意識を副長に向けたと同時に、





「抵抗しなければ、一瞬で殺(や)ってやる」


すぐ近くに副長がいて。

彼のもつ刀が首筋に当てられていた



『ッ!!!』

迷いなく、刀が振り切られたかと思うと首筋に鋭い痛みが奔る


「…さすが」

『…ッ─…!』


思いっきり体を捻り、首が刎ねられるのは免れたものの、傷は予想以上に深い




ツッ──


パックリ斬れたそこから流れる血の感触とズクズクとする痛みで、命を狙われていることがようやく実感できた



……もうこの人は副長じゃない。


マヨラーだけど、正義感があって、けどどこかヘタレで

自分以上に真選組を大切にしていた。


──今はもう、攘夷志士と変わらない




「…尚、みんながあっちでお前を待ってるぜ」


動けない私に、迷うことなく刀を振り下ろす副長を見ながら、

静かに涙を零した。























『───てゆう夢をみたんですよ、副長』



長ェエエ!!!

ちょ、まって。誰かとかぶってね?なんかかぶってね?」

『なに言っちゃってるんですか。副長はかぶってなんかいませんよ。鬼兵隊の総督なんて肩書きなかなかかぶりませんって』


「もうまるまる答え言ってんじゃねェか」







ぶっ壊すしかあるめーよ
( 脳裏にちらつく片目のひと )









「ん?てかまて。おまえ、俺に恋していたって・・・」

『あぁ。夢っスね』

「・・・」





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