煌く綺羅の夜 | ナノ


▽ 番外編 DOTING 5


その頃、診療所にはその白梅枝都がきていた…
「ねぇ、由騎夜く〜んv」
「……(無視)」
「今夜ぁ、私のトコにこない?」
「……(また無視)」
「ねえ、無視しないでぇ」
「…仕事の邪魔、しないでくれないか」
そう、今は例の緋耶牙の栄養剤を作っている最中だった。
「ああん、もう!そんな冷たくしないで?」
枝都が上目遣いで言ってくるが、由騎夜には通用しない。
「……」
今の枝都の体勢は、右手が由騎夜の左肩にのり、その両足は左足を挟むように… …まるで、腰を押し付けるかのように立っていた。 と、そこへ。お昼を持った蓮花がやって来た。
「由騎夜さーん、お昼ですよー…って、あ…れ?」
どうみても診療ではない様子の由騎夜と、由騎夜を負傷させた女がいて…。
「あら、貴方?」
「あ!(まずい)」
由騎夜がそう思ったのも、束の間。
「ご、ご、ごめんなさい!」
そう言うと蓮花は、一目散に診療所から出て行ってしまった…。
「ちッ!」
由騎夜にしてはとても珍しく舌打ちをすると、枝都を振り払い蓮花を追いかけた。
「キャッ!」
振り払われた時、枝都は声を発したが由騎夜がそこ声に反応することはなかった。
「…あの女…」
呟いた枝都の顔には笑みが浮かんでいた。


由騎夜は例の森の入り口で蓮花に追いつき、名前を呼びつつ、後ろからガバッと抱きしめた。
「…ック……ヒック…」
蓮花は知らない間に走りながら泣いていた。
「蓮花ちゃん…待って!」
そう言って蓮花を抱きしめたが、軽く拒否されてしまう。
「イヤッ…離して…ック…くだ…さい…ヒック…」
そこで今までの由騎夜なら離していただろうが、由騎夜は離すことなくさらに抱きしめる腕に力をこめた。
「誤解だから!何にもないから、落ち着いて!!」
「う…ふぇ〜ん…バカッ…」
("バカ"・・・"バカ"って言われた……でも!)
「蓮花!!」
そう言って由騎夜は蓮花を振り向かせ、ちょっと強引に口づけた。
「!!」
蓮花は驚いて、瞳を見開く。そして、驚きのあまり泣き止んでいた。
「由騎…夜さん…?」
「俺の気持ち…ちゃんと。蓮花ちゃんのこと、好きだから。ねっ?」
そうして微笑んだ由騎夜に蓮花は安心して、再び泣き出してしまった。
「泣くなよ…」
そう言って、蓮花の頭を自分の胸へと抱き寄せた。 その姿を一部始終見ていた人物がいた。
「由騎夜!やったな!」
緋耶牙だった。人の初キスを目撃するなんて嫌な奴。が、緋耶牙はそっとその場を後にした。
「あ!…由騎夜さん、お昼…」
泣き止んだ蓮花が呟く。
「そうだね、戻ろうか。時間短縮のために、とぶから」
そういうと、由騎夜は蓮花を抱きしめ直す。 丁度、由騎夜の胸のところに蓮花の頭があって、蓮花には嫌でも由騎夜の鼓動が聞こえてしまう。
(由騎夜さんの心臓の音…安心できる…)
そう思っていると景色が変わった。診療所である。 もう、枝都の姿はなく、お弁当も…無事である。薬品関係で無くなっているものもなかった。 由騎夜は一先ず、安心した。
「じゃ…ゆっくりお昼にしようか…」
由騎夜は、お茶を入れに奥へと入っていく。 一人になった蓮花は、つい先ほどのことを思い出していた。
(あの女の人が…居たのにはショックだったけど…『蓮花』って呼んでくれたよね…) (それに・・・キスもされちゃったんだ・・・)
改めて意識すると、蓮花の顔はみるみる赤くなっていく。 そこへ、由騎夜が戻ってきた。
「・・・ちゃん、蓮花ちゃん?」
「え、あ、はい!」
由騎夜を見た瞬間、目が合ってしまい、恥ずかしさが倍増して赤面したまま、うつむいてしまった。
「…?どうしたの、顔真っ赤…だよ?」
「え、いや…何でもないんです」
そう答えていても、うつむいたままの蓮花は真っ赤で、由騎夜は下から覗き込むようにして蓮花を見る。 瞬間…蓮花の身体がビクッと跳ねたのを、由騎夜は見逃さなかった。
「もしかして…さっき、強引に口づけしたこと…嫌だった…?」
由騎夜にしては、やけに珍しくストレートに言ってのけた。
「え!?あっ、そんな・・・別に、全然嫌じゃなかったです…」
最後の方は、とても小さくて、注意して聞かないと、聞き取れないほどの大きさだった。 でも、由騎夜はしっかり聞いていて。そして微笑む。
「よかった…もし嫌がられて、嫌われたらどうしようかと思った」
由騎夜の笑顔は今までで一番のような気がした。
「じゃ、食べようか。かなりバタバタしちゃったけど…俺、お腹ぺこぺこだ」
「はい!実は、私もぺこぺこです」
そう言うと由騎夜と目が合い、そして、二人で微笑みあった。

移設20171202




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