煌く綺羅の夜 | ナノ


▽ 第十二章 言葉は心の使い 4


そこは出口だった。
入口とも言うが、この場合、出口だ。
「四葉」
何も言わずに、振り向く。
美しい白銀の髪――ヨーシュ。
「調子は、悪くないようだな」
「おかげさまで」
やけに静かだった。
ただ単に、人気がないだけかもしれないが。
「…挨拶は?」
「必要ないだろう。礼ぐらい言ってこようかとも思ったが、わざわざ戻るまでもない。…先に言っておくが、代金は置いてきてあるぞ」
「いゃ、そんなことは分かるけど」
少し間をあけて、ヨーシュは続ける。
「…これは、私が言うようなことではないかもしれない。…商売柄、君の父…駿模殿の話を聞くのだけれど」
「・・・・・・」
「伽代家と、癒しの力の使い手の話を。蓮花さんのこと…」
「大層、酷い評判が聞けただろう?」
表情を変えずに、四葉は言った。
「ああ、確かに。…ただ、聞けば聞く程、逆に思えて仕方がない」
「…逆」
「監禁、ではなく、実際は」
「保護とでも言いたいのか?」
言葉を遮る。
「…君は、どう思っている?…気持ちを、考えたことは…」
「薄々は前から気づいていた。…蓮花が家を出てからだが。だからどうだ、という訳ではないだろう?今更…」
「…四葉」
「今更、話し合う気もなければ、戻る気も、ない」
やはり変化のない表情―だが、口調はどこか重さを含んでいた。
「だから、髪を染めたのかい?」
「――気付いてたのか」
「・・・何となく」
「本当は、父と全く同じ青い色だ。…昔から、嫌いだった」
四葉は、長くはない髪を指で弄ぶ。
外見に似合わない、とまでは言わないが繊細な指が、水晶色の瞳を顕にした。
「目も、顔も、俺は父似らしい」
「…だったら、君の父上はよほど女性に人気があるだろうね?」
「…………」
指先が、髪から離れる。
それは弱者のものではなく。
触れずして相手を傷つける、繊細な刃。
「御喋りが過ぎた」
四葉はヨーシュに背を向けた。
「……御機嫌よう、ガフォウル・レイ=ヨーシュ伯爵殿」
何気ない――少なくとも今までと大差ない、口調の一言。
吐き捨てるでもなく、語りかけるでもなく。
ただそれは、初めて人へ向けた皮肉だった。
「・・・どこでその名を?」
動揺は心の内へ押しやり、静かに聞く。
「父は、この大陸で唯一・・・と言っていいだろう。他大陸との交流があった。俺が知っているのは、グリューラル帝国のレイリュース皇女という名だけだが」
「―――・・・それは、私に対する嫌味かな?」
「まあ、そういう言い方もある」
四葉は一歩、外へ踏み出した。
「・・・話が聞きたいのなら、鳳俊へ行ってみるといい。名前を出せば、手厚くもてなしてくれるだろうさ」
ゆっくりと、歩いていく。
「・・・ありがとう、伽代、四葉。縁があれば、また・・・いつか」
ヨーシュは微笑んだ。
言葉には、先程の仕返しに柔らかな刺を込めて。

移設20171126




[ prev / Top / next ]