煌く綺羅の夜 | ナノ


▽ 第十一章 真夜中の静寂 3


鎧綺はいらいらしていた。
一体、何が起きたのかもわからず、ひとりだけ蚊帳の外にいるようで、いらいらしていた。
とりあえず、言われたとおりに蓮花を探すことにする。
ふと、蓮花は今、由騎夜と一緒にいるのだろうかと疑問に思う。
そうなら、二人は診療所にいるだろうが、もしかしたら蓮花はひとりで迷子になってるかもしれない。
わからないので、村を一回りしてから診療所に向かうことにする。
「畜生・・・なんで、俺だけひとりなんだよ・・・」
そんなことをつぶやきながら…。

蓮花草。
夜道に、紅紫の小さな花が咲いていた。
見落しがちに、だがしっかりと。
もう、この花の季節は終わっている。
恐らく、来年まで見ることはないだろう。
蓮花…海緑蓮花。
彼女が、弟を変えた。
笑うようになった。
(本気だよな、あいつ)
自分はどうだっただろう。
苛立ちが募っていく。
鎧綺は、深く溜息をついた。
(――今回ばかりは…な)



―何と言えばいいのだろう。
様々な言葉が頭をまわり、咽の奥で引っかかる。
それでも、答えたい。
自分を好きだと言ってくれた相手。
ゆっくりと、蓮花は言葉を紡ぐ。
「わたし……えっと、由騎夜さんの横に、その…居たいと思いました…………ずっと」
抽象的な言葉――だが、少なくとも否定ではなかった。
何か言おうとする由騎夜。
が、ドアが開いた。
「蓮花ちゃん、由騎夜、いるだろ?」
「鎧綺さん…?」
少しだけ由騎夜に申し訳なさそうに、蓮花は顔をのぞかせる。
「四葉さんが呼んでるよ。家で待ってるって」
「えっ…と」
ちらりと由騎夜を見る。
「俺も戻るよ」
蓮花に続き、由騎夜も部屋を出た。
鎧綺と目が合う。
蓮花は外へ出たらしく、もう姿はなかった。
たった今、気付いたことだが、夜景を見ていたのだ。
よって、電気をつけていない。
兄が想像しそうなことは知れている。
何か言われる前に、誤解はとくべきだろう―――蓮花のためにも。
だが言葉は見つからず、気まずい空気が流れる。
先に目を逸らしたのは、鎧綺だった。
「…今回だけ、だからな」
言い残し、出て行く。
それは果たして、どうとるべきなのか。
今日のことは見なかったことにするという意味か。それとも。
それとも、蓮花のことを――。
ともあれ、考えていても仕方がないので、由騎夜も外に出て、鍵をかけた。
心中で(悪いな…)と呟きながら…。


蓮花をはさみ、歩いていると鎧綺がぽつりと呟いた…。
「大……か、……はや」 (大丈夫だろうか、稚林)
聞き取りずらく、蓮花が聞き返す。
「何て言ったんですか?」
由騎夜も目だけを鎧綺の方へと向ける。
「うん。俺、ちょっと稚林の様子見てくるから、先帰ってて」
「ちーちゃん、どうかしたんですか?」
「あー…、ちょっとに。気を失って倒れたんだ」
「えっ!!」
「だから、ちょっと寄ってから帰…」
「私も!!」
言いかけたが、鎧綺がそれを遮った。
「だーめ。四葉さんが帰って来いって言ってる。怒られるのは俺だしな、蓮花ちゃんを連れていった場合…だからだーめ」
そこで由騎夜が口を開いた。
「じゃ、俺が見に行く。一応…」
「お前もだめだ」
鎧綺の口調が明ら様に強かった。
「ちゃんと、四葉さんのもとへ蓮花ちゃんを連れて帰れ。増してや…お前は家にいないとだめだ!!!」
「何で!」
少々、喧嘩口調であるが…そんなことを言ってる場合ではない。
「…(やや躊躇って)たぶん、姉貴が倒れた。原因はきっと…あの声(アレ)だ…。だから、お前は家にいろ…じゃ、行ってくる」
そう言って鎧綺は走って行ってしまった…。
鎧綺の話を聞き、由騎夜は瞬間フリーズした。
「由騎夜さん…?大丈夫ですか?」
蓮花が呼びかける。その声にハッとなる。
「あ、あぁ。ごめん…。急いで帰った方がいいな。…空間移動…したことある?」
「いえ…無いですけど…」
「そっか…乗り物酔いする?」
「全然、大丈夫です」
「そう、なら…」
由騎夜は少し躊躇った…のちに…。
「あの…飛んで戻るから…(赤面して)手…つないでくれる?」
由騎夜の差し出した手に蓮花の手が重なる。
その瞬間、由騎夜と蓮花は宿屋の前にいた。



「で、稚林の様子は…?」
鎧綺は稚林の家にいた。家の人に様子を伺っていると、祢音が帰って来た。
酒場に行った後、フラフラと遊んで来たのだろう。
「それが大したことなくてね、鎧綺くん…」
稚林の母の言葉は祢音によって遮られた。
「きゃあvvどうして鎧綺がいるのぉ!!」
「稚林が気を失って…様子を見に来て下さったのよ」
「えー、そうなの?あの子のコトなんて気にしなくてもいいのに。それより…」
と祢音は鎧綺に媚を売った声で呼びかける。
そんな祢音を見向きもせずに鎧綺は、母親に問いかける。
「あの、稚林の部屋は…?」
「二階の突き当たりですよ」
「会いに行っても構いませんか?」
「えぇ。じゃあ、案内しますね」
「ちょっと、鎧綺?あの子の所に行くの?」
鎧綺にはその声が届いていないようである。いや、無視か…。
「ねぇ、鎧綺ってば!!」
とことん無視である。
祢音の呼びかけも空しく…鎧綺は二階へと上がっていった。

稚林は窓に寄りかかり月を見ていた。
コン、コン
戸が鳴ったので、返事をする…。「はい、どうぞ」
戸の開く気配が無いので、稚林は戸に歩みよりゆっくり戸を開いた。
戸を開き、目に飛び込んで来たのは、ずっと憧れていたその人。
「!!」
稚林は息をのむ。先に口を開いたのは―――。
「…身体は大丈夫なのか?もう起きてて平気か?」
鎧綺だった。

移設20171126




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