煌く綺羅の夜 | ナノ


▽ 第三章 暴風は旅人達と共に 3


朝食の後、いつもと同じように鎧綺は仕事へと出かけて行った。
いや、正確にいうと、煌瑚に追い出されたのだ。
4人で朝食をとっていた間中、鎧綺は蓮花に話しかけ続けていた。
蓮花の隣に煌瑚が座って、にこにこ笑いながら、けれど目だけは笑わずに鎧綺をにらんでいたので、不用意なことは何も言えなかったが。
鎧綺が家にいると蓮花の身が危険だと思ったのか、煌瑚は鎧綺が朝食を食べ終えた直後に、弁当を手に持たせて、家からしめだしたのだ。
「夜までは帰ってこないでね」
天使のような笑顔をうかべ、そう言いながら。
鎧綺が仕事へ出かけてから、煌瑚は蓮花に仕事を一通り教えつつ、ヨーシュに手伝ってもらい(客なのに・・・)何故か大掃除を始めていた。
煌瑚曰く、
「いつもは大掃除したくても、鎧綺も由騎夜も手伝ってくれないのよ。だから人手があるうちにやっちゃうのよ」
大掃除は午前中いっぱい続いた。

「こ…煌瑚…さん……こんなことを毎日…してるんですか?」
蓮花は、床に座り込み、肩で息をしながら煌湖を見上げた。
「そんなことないわよ。いつもなら、天井裏のそうじとか、家具を移動させてまでのそうじなんて、しないわよ。
今日は少し、人手があったから、ね」
煌瑚はヨーシュを見て言った。
「……それじゃあ、いつも床みがきとか、窓拭きとか、壁紙を変えたりしてるんですか。それも1人で」
ヨーシュは煌瑚を驚きの表情で見つめた。
「まぁ、そうね。でも壁紙を張り替えるのは、月1くらいかしら。でも、今日は人手があったから少し楽だったわね」
煌瑚は、さらりと言った。
ヨーシュと蓮花は、賞賛のまなざしで煌瑚を見つめた。
なにせ、3人の中で一番動いていたにもかかわらず、煌瑚の呼吸はまったく乱れていないのだから。
「それじゃぁ、もうそろそろお昼にしましょ。何が食べたい?」
煌瑚がそう言ったとたん、“ぐぅ〜〜〜〜〜〜〜”という、誰のだかわからないがお腹の音がなった。
一瞬の沈黙。
「あ・・・・・・そういえば、今、家に何もなかったんだ。買いに行かないといけないわね。れんちゃんは家で休んでていいわよ」
煌瑚はにっこり笑って蓮花に言った。
「わたしは何をしたらよいのかな?」
「買い物のお供をしてもらうわ。そのついでに、村を案内してあげるから」
煌瑚にとっては、客も従業員も区別はないようだった。


煌瑚とヨーシュが買い物に出かけてから、蓮花はぼーっとしていた。
さっきまで、あんなにもにぎやかだったはずなのに、それが嘘のように静かで自分の立てる音だけが、妙に大きく聞こえた。
こういう時にかぎって天紅はいない。
時計の音、自分の足音、自分の胸の鼓動。
ふと気がつくと、蓮花はドアの目の前に立っていた。
「・・・・・・なにやってるんだろ、わたし」
蓮花はため息を吐いた。
すると、突然、ドアが開いた。


「そこがパン屋で、生クリームワッサンが目玉商品わしいけど、あんまりわたしは買わないわ。それで向こうが本屋。品揃えはよくないけど、頼めば取り寄せてくれるわ。半年かかるけど」
煌瑚は指差しながら案内する。
「それで・・・・・・ねぇ、聞いてる?」
煌瑚は立ち止まり、ヨーシュをみて言った。
ヨーシュのほうが頭1つ分ぐらいは背が高いので、煌瑚は自然と見上げるかたちになるのだが。
今は見上げてもヨーシュの顔は、たくさんの荷物のため見えない。
「え・・・えぇ、聞いてますよ」
ヨーシュは、荷物を落とさないようにバランスをとるのに、苦労している。
「荷物落とさないでね。それで、あっちが・・・」
煌瑚が店の説明をはじめようとした時、小さな石が煌湖にあたった。
見ると…少年が立っていた。少年はまた小さな石を投げてきた。
今度はヨーシュに当たった。
「ばけものは出てけっ!」
煌瑚は、すっと目を細め少年を一瞥すると、歩き出した。
「行きましょ」
ヨーシュは困惑しながらも、煌瑚の後についていった。
少年はもう、石は投げなかった。まるで、煌瑚の瞳に恐怖したかのように。
「今のは、いったい・・・」
「気にしなくていいわ」
ヨーシュの問いに、煌瑚はそっけなく答えると、そのまま黙ってしまった。

移設20171115




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