妬きもち -後編-
雅嗣と優貴と別れてから10分。 有麻は緊張のあまり、一言も自分から言葉を発していなかった。そんな有麻を気遣い、和幸は食べ物がのっているテーブルへと有麻を連れてきたのだったが…。
「あれ、有馬〜?」
同僚の何人かが声をかけてきた。
「その可愛いお嬢さんは?ひょっとして、お前の彼女かなんか?」
有麻はその言葉を聞いて、恥ずかしさに俯いた。
「いや、彼女は海藤先輩の妹さんだよ」
慌てて有麻は挨拶した。
「初めまして。海藤 有麻です。いつも兄がお世話になっています」
しかし内心は複雑だった。彼女かと聞かれて、躊躇いもなく"いや"と否定されたのだ。このまま自分が一緒にいても、いいものなのかと…。 と、ちょうどそこへ先程の美人 - 同僚の工藤菜々未 - がやって来た。
「有馬くん、向こうに美味しいワインがあったけど…って、そちらは?」
明らさまに、有麻の存在を煙たがっている言い方で有麻のほうを見た。
「こちらは、海藤先輩の妹さんで、有麻ちゃん」
周りの同僚が、有麻のことを"可愛いよな〜"と菜々未に言っている。
「初めまして。いつも兄がお世話になっています」 「で、同期の工藤女史(笑)」
和幸が笑いながら、おどけてそう紹介した。
「ちょっと、女史ってねぇ。工藤菜々未です、よろしく」
そう言うと菜々未は有麻に向かって右手を差し出した。有麻もそれにならって、右手を差し出し握手を交わす。同時に"少し有馬くん、借りていってもいいかしら?"と切り出した。
「えっ?」 「あなたといたら有馬くん、大好きなお酒も飲めていないみたいだし…」
"おぉっと、工藤女史、こわーい"などといった声もあがっている。
「おい、工藤。俺は先輩に彼女のこと頼まれて…」
和幸の言葉も菜々未によって遮られてしまった。
「大丈夫よ、先輩たち戻ってきたみたいだから」 『えっ?』
と、有麻と和幸の声が重なり、後ろを振り返るとゆっくりと回りに挨拶しながら近づいてくる雅嗣と優貴の姿があった。
「そういうことだから、有馬くんは借りていくわね」
と強引に"行きましょ"と有馬の腕を引いて連れていってしまった…。 雅嗣と優貴と合流した有麻は和幸が連れて行かれてしまったことを、自分から"どうぞ、と言った"と和幸をかばった。しかし、内心は和幸を引き止められなかった自分を悔やみ、菜々未の行動力に嫉妬していた。 後に、嫉妬される側になるなんて思ってもいなかった 高校一年の秋のことである。
20171103[20050203] 短編のはずが前後になってしまった「妬きもち」ですが、今考えると…「有麻」も「有馬」も同じ読み方出来るんですね。汗。 「有麻」は「ゆま」です。「有馬」は「ありま」です。笑。 二人が急接近した出来事です。この話は「片思い」と時間的にリンクしてます。 しかし…ここまで菜々未を意地悪くするつもりは無かったんだけどなぁ。
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