妬きもち -前編-
有麻は兄・雅嗣の部屋のベッドの上でゴロゴロしながら、PCに向かっている兄を眺めていた。
「有麻・・・今日はなんだ」
雅嗣がキーを叩きながら、有麻に話かけた。
「お兄ちゃんはさぁ・・・会社も、優貴さんと一緒だからいいよね・・・」
そう言うと有麻は溜息をついた。
「有馬と何かあったのか?」 「ううん、有馬さんと何かあったわけではないけど・・・昼間、女の人と一緒に歩いてるとこ見ちゃって・・・でも、別にあたしは彼女とかでもないしさぁ・・・」
そう言うと、有麻は抱えていた枕に顔を埋めた。
「有麻、そんなに有馬がいいなら、早く気持ち伝えたらどうだ?あいつなら、俺も文句言わないけど?」 「簡単に言わないでよ〜。もしかしたら、今日一緒に歩いてた人が彼女かもしれないじゃない」 「あいつ彼女いないはずだぞ?」 「嘘だ、なんでお兄ちゃんがそんなことわかるの?」 「この前、誰かいないですか?って聞かれたから」
いつの間にか、雅嗣はキーを打つ手を休め、回転椅子に腰掛けたまま、ベッドのほうを向いていた。
「なんだったら、今度する会社の親睦パーティに来るか?」 「いつも船でする外国の人もくるパーティ?」 「あぁ」 「あたし、会社に関係ないけど?」 「社員の家族は参加OKだから大丈夫だ」
有麻は少し考えた。いいチャンスかもしれない。それに有麻は英語の強い私立の高校に通っていたから、会話には問題もなかった。
「じゃぁ・・・行きたい、でも着ていくモノはどうすればいいの?」 「心配ない。優貴に頼んでおく」
そして、パーティ当日。 有麻は優貴が用意してくれた可愛らしいピンクのカクテルドレスに身を包み、雅嗣と優貴と三人でパーティ会場に来ていた。その普段の世界とはまるで違う空気に、有麻はドキドキしていた。
「有麻ちゃん、可愛いわ。やっぱりそのドレスにしてよかった」
優貴は長女だったが、弟二人だったため、有麻のことを本当の妹のように可愛がっていた。
「優貴さんはすごく綺麗です!!」
有麻がそう言った優貴はシックな黒いドレスを身に着けていた。
「ありがとう」
優貴はそう言うと、雅嗣のほうを向き直り"雅嗣は何も言ってくれないのね"と。
「言ってほしかったのか」
有麻と二人きりの時はそんなことはないのだが、雅嗣は優貴がいると、とたんに俺様になってしまうのだった。
「お兄ちゃん!!」 「なんだ?」 「その口の利き方直したら!」 「有麻ちゃん、気にしないで。それより、向こうにお目当ての彼がいるけど・・あっ・・」
優貴が、何とも言えない顔をして視線をそらした。有麻がその方向を見ると、有麻の想い人・有馬和幸が一人の美人と楽しそうに話をしている姿があった。
「…やっぱり、来ないほうがよかったのかぁ…」
そんなことを呟いてみる。
「ちょっと待っていろ、優貴、有麻の側にいてくれ」 「あっ、お兄ちゃん?!」
有麻の声は届かず、雅嗣は和幸のほうに歩いていった。
―――数分後
「優貴、有麻――」
名前を雅嗣に呼ばれて、二人が振り向いた先に、雅嗣と肩を並べた和幸が立っていた。
「有馬、連れてきたぞ」 「こんばんは、樫木さん。それに…有麻?ちゃん」 「こんばんは、有馬くん」 「こんばんは、有馬さん」
有麻は緊張と恥ずかしさとで顔がほんのり赤くなるのを感じた。
「有馬、俺は優貴と回ってくるから、有麻と一緒にいてやってくれ。てか、変な男が近づかないように守っとけ」 「えっ!?お兄ちゃん?!ちょっと・・・」
慌てる有麻を余所に、優貴まで「大丈夫よ」といった始末。
「有馬、じゃあ頼んだぞ」 「わかりました」
和幸の返事を聞くと、雅嗣は優貴をエスコートして人の山の中に消えていった。
20171103[20050113]
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