濡れた眼差し
季節の変わり目には、体調を崩し易い。
怜も例に漏れず、体調を崩していた。
今週の半ばから、体調を崩していた怜は、いよいよ金曜日。
残業を終えて帰ってきた途端、玄関で崩れ落ちた。
自分が先に帰ってきていたから良かったものの、これが怜一人で暮らしていたら…、と思うと篤希はゾッとした。
「怜?大丈夫か?」
寝室に入って俺がそう声を掛けると、怜は薄っすらと目を開けた。
俺は持ってきたお粥をサイドテーブルに置くと、ベッドに浅く腰掛けて汗で額に張り付いている怜の前髪を除けてやった。
「・・・篤、希?」
熱がある所為で、何もしていないのにも関わらず、濡れた眼差しに少なからずドキリとしてしまった俺は
不自然に間が空いてしまったことを誤魔化すように、言葉を紡いだ。
「…あぁ。お粥、作ってきたけど食べれそうか?」
「ん・・・喉渇いた」
俺は怜の言葉に立ち上がると冷蔵庫からポカリを持ってきた。
コップにあけてストローを差す。それを一旦、サイドテーブルに置いて怜の身体を起こしてやった。そして、コップを差し出す。
「飲んだら、食べられるか?」
「うん・・・でも、先に着替える」
「了解」
俺はクローゼットを開けて、中にあるタンスから怜のパジャマを取り出しながら声をかけた。
「怜?下着はどうする?」
「あー…うん、着替えるや」
俺はその返答に、とりあえず、パジャマだけを怜に渡した。さすがに恋人関係で同棲してると言っても
勝手に彼女の下着を取り出すようなことはしたくないから。(夜の営みで脱がすのは、また別だけどさ。)
「着替え終わったら声かけて」
それだけ言うと俺は寝室を出た。
先程見せた、怜の眼差しがソレの時に見せるものと酷く似ていて、
そのまま着替えるところを見ていたら、抑えが利かなさそうだったから。
さすがに、病人相手に無理させてまでそんなことはしたくなかった。
「ほら、食べ終わったんならコレ飲んでまた寝ろよ」
あれから着替え終わった怜がお粥を食べてる間に、洗濯機を回して
俺は薬を持ってまた寝室に戻ってきた。
「うん。…ごめんねぇ、せっかくの休みなのに」
「気にしないで、ゆっくり寝な」
「うん…寝るまで、そばにいて、ね…」
最後の方は既に意識が落ちかけていたのか、すぐに寝息が聞こえてきたが
俺はそのまま寝室を出ることをせず、ベッドに腰かけると、子供にしてやるように
ポン、ポンとリズムを刻むように怜の腰辺りを叩いてやった。
五分くらいそうしてから、俺は寝室を後にした。
元気になったら、この反動で無理をさせてしまいそうだな、と思いながら。
20171016(20070228)
どきりとする10のお題・・・どきりか?笑
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