サイコラブ | ナノ
ここはどこだろう。呆然としている私を、彼はじっと見ている。
とてもまぶしい。そしてたくさんの色がある。私は今まで、黒だとかネイビーだとか、そういう色しか見てこなかったから。新鮮な世界に戸惑う。でも、違和感はやっぱりある。
でもケイといた空間で感じていたものとは違う。あそこでは浮遊感というか、何かぼんやりとした恐怖があった。でもここではなにか懐かしい予感がするのだ。感じたことがあるのだ。匂いだとかこのぽかぽかした様子だとか眩しい日差しだとか。
揺れる無数の白い花が囁くように動いている様子はどこかで見た気がする。デジャヴなんかじゃない。きっとこれはどこかで見たはずだ。
「ねえ、ケイ」
「なに、ハニー」
「この白い花はなあに」
私は花を手折ってじっと見つめていた。少し袖の長い黄色のワンピースは、ケイが選んだものだ。
「これはシロツメクサだよ」
「シロツメクサ……?」
「そう、君が過去に住んでいた惑星にあった花だよ」
「花……」
過去に。過去に私が住んでいた惑星。一体どんな惑星だったんだろう。でもこのシロツメクサは、とっても綺麗でかわいい。
「ねえ、ケイの惑星には花はある?」
「……俺の惑星には誰もいないんだ。俺が強すぎたから、ひとりぼっちになっちゃった」
そう言って遠くを見るケイはとても悲しそうだった。
「私の惑星には、私の仲間はいっぱいいるの?」
「……」
「ケイ?」
「いなくならないで」
急に抱きしめてくると、ケイはそう言った。
「お願い」
きっと私の惑星にはたくさんの仲間がいるんだ。でも私がそこへ還ると彼はひとりぼっちになってしまう。
私が話しだした。ケイはずっと私を抱きしめていた。
「ねえ、ケイ。私昔ここへ来たことがある気がするの」
「……ごめん、ごめんねハニー」
「もうすぐ思い出せそう」
「だめ、それはだめだよ、ハニー」
「でもきっと……」
「ごめん、ごめんね……」
彼は私を抱きしめ続けていた。嗚咽を漏らした声で泣いていた。私も涙を流していた。悲しくて、悲しくて堪らなかった。きっと、ケイと同じくらいに。