サイコラブ | ナノ
私は衝撃的なことを知った。なんと、ケイには顔が無かったのだ。
「ケイ、何をしているの」
「食事だよ、ハニー」
ケイは首に何かを放り込んでいた。それは咀嚼もされず、きっと彼の身体の底に落ちていくのだろう。
「ハニーも食べようよ」
そう言って彼が私の口元に差し出してきたものを、私は啄むようにして受け取る。咀嚼をしてみると、初めて感じる感覚が私の中に入ってくる。
「……美味しい」
何故かそれを表現する術を持っていたのが、私は不思議で堪らなかった。――いや、不自然で堪らなかった。
「ハニーはパンが好きかな? それともゴハンがいい?」
「ゴハンも食べたい」
「はい、ハニー」
「ん」
……ゴハン。美味しい。初めて食べるのだ。この小さな粒一つ一つを、私は初めて見て、初めて咀嚼した。でも……
「ねえ、ケイ、私一度も食べたことってないよね?」
「そうだね、君は今まで水しか摂っていなかった。冷たい場所で一人きりで」
「……私にはその記憶はないよ」
「うん、君には必要ないから」
俺だけを見ていてね、そうすれば色々なことを教えてあげるから。美味しいものも、楽しいものも、美しいものも全部君にあげるから。そう言って、相変わらず私の蒼髪を撫でる彼は、どこか不思議だ。――いや、不自然だ。