サイコラブ | ナノ



 ――私は、分からなかった。自分がどこにいるのか、何故ここはこんなに暗いのか、一体何故私は閉じ込められているのか。
 そして、私は誰なのか。



 鳥籠のような牢屋に閉じ込められていた。私は身体を引きずって鉄格子の前まで来る。周りには何もない。無機質な灰色の壁が正方形に私を囲んでいた。部屋も大きいみたいだった。鳥籠は私が四、五歩歩けるほどのゆとりがある大きなものだったけれど、鳥籠から手を伸ばしても壁には届かなかったもの。勿論、がらんどうの部屋に唯一ある扉にさえも。
 不意に、がちゃりと扉が開いた。初めてだった。扉が開いたのも、私が「彼」と接触したのも。
 私はじっと彼を見ていた。彼は――私と同じ生き物では無かった。似たような身体をしていたけれど、それはヒトでは無かった。人型の、何か別のもの。何か、不思議なもので、つるつるした何かでヒトが囲われている、そんな姿をしていた。筋骨隆々な身体つきで、きっと男の人だろうと思った。そして鳥の嘴みたいに尖ったヘルメットを被っていた。それに、トカゲみたいな、でもとても太くて重量感のある尻尾を持っていた。彼はそれを左右に振りながら、私の元へとやってきた。不思議と怖くはなかった。なんだか、私はこうなる運命であったような気がする。私が、こう願った気さえしてくるのだ。
 重苦しい、黒い鉛の扉が開かれる音がする。彼は、私の髪を、黒いごつごつした手で掬って、こう言った。

「やっと会えたね」

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