※R-18














 私は一度もセックスをしたことがない。
 実に恥ずかしい話かもしれないけれど本当なんだ。初めてできた彼氏が彼なわけだけれど、付き合って約三年経つ今でも、一度も情事に励んだことがない。前戯ならば何千回と重ねたけれども。……原因はわかっている。前戯で彼が果ててしまうせいだ。
 彼はアレはその巨躯に見劣りしないくらい……大きい。本人が一番気にしているんだろうけれども。太さとか硬さも常人以上だと思う。彼以外のものを見たことがないから確証はないけれども。しかし、そんなハイスペックが霞むような特性も持っている――それよりも、彼は何よりも……早漏だ。
 軽く乳首を弄っただけで、パンツごしからソレを触っただけで、素股で彼は満足してしまう。でも、正直私には性的欲求が面白いくらいないから、ちょうどよかったりする。セックスは痛いらしいし、というかあんな巨根つきつけられたら痛いだろうし、そういうのは結婚してからでもいいかな、なんて思ってたりする。

 セックス……もとい前戯を終えた後、彼は必ず煙草を吸う。私は言うほど疲れていないけれど、彼は射精しているわけだからかなり体力を使っているはずだ。うとうとしながら煙草を吸うと、すぐに寝てしまうことがしょっちゅうだ。軽く私にこつんと例のキスをすると、すぐにヘルメットに文字列が表示され、ぷしゅぅと機械質な音を立てて眠りにつく。
 一度悪戯で、彼が寝ている中、パンツごしにソレを弄ってみたことがあった。……正直やらなきゃよかったと思う。だって、今まで聞いたことのないような艶かしい喘ぎ声が聞こえたから……。今まで気づかなかったけれど、きっと行為中、かなり声を押し殺してたんだなと思う。びっくりしてすぐに弄るのをやめたけれど、暫くは腰を突き出したりしてもぞもぞしていた。次の日恥ずかしそうにパンツを洗っていたところを見ると、多分……。
 もう二度とやらないと誓った。何故なら今でも物凄い罪悪感に駆られるからだ。彼は私に無理強いなんてしてこない。もしかしたらセックスしたいのかもしれないけれど、無理やり襲ってきたりなんてしない。私に触れる場合ですら一言訊いてくる。そんな真面目な彼が、好きだ。



 彼はいつも通り煙草を吸っていた。ベッドの端に、私と彼で二人座っている。私はじっと夜空を眺めていた。彼はうとうとしながら私の肩に少しもたれかかる。大きな彼がもたれかかってくると少し重いし辛いけれど、すぐに彼ははっと目を覚まし、私から離れるのであまり気にすることはない。

「……なあ」
「なあに」

 煙草の煙が夜の部屋に揺蕩う。しゅー、と煙を吐く音が、汽笛のようで心地いい。

「いつも俺ばっかり気持よくなって、悪い」
「いいんだよ、私前言ったとおり、全然性欲ないし」

 多分マグロっていうわけではないと思う。乳首を触られればくすぐったくて少し淫靡な気持ちになるし、でもそれ以上に、セックスの恐怖が勝っていて、それ以上の境界線に踏み込むことができない。しようと思えばできるのかもしれない。というか、人類の大半がそうしてきたんじゃないかと思う。でも、彼は別にしたいようじゃないから、だから別にいいんじゃないかって今は思っている。

「……何かして欲しいこととかないのか?」
「別に……ないけど、逆にあるの?」

 そう訊くと、彼は露骨に目を背けた。そして何故かまだ火を点けたばかりの煙草を灰皿に押し付けた。……絶対に何かして欲しいことがあるな、これは。

「……何?」
「え、や、その……」

 彼に凭れかかって訊いてみるも、ヘルメットは真逆を向いて話そうとしない。恥ずかしいのか、それとも私に申し訳ないと思っているのか。申し訳ないと思っているのなら、それは大きな考え違いだ。私は奉仕したり相手に合わせるのが大好きなのだから、そんな風に思っているのなら思い直して欲しい。恥ずかしくても、笑ったりしないから言って欲しい。――そんな思いが通じたのか、彼が次第に口を動かしはじめた。

「……して欲しい」
「何?」
「……って欲しい」
「え? 聞こえない」

 ちょっと意地悪に、にやにやしながら返事したときだった。ずぅんと私の前にヘルメットを突き出してくると、呆気にとられている私に向かって、彼は

「罵って欲しいです」

 と確かに言ったのだった。しかし、なんと私は

「うん、いいよ」

 と至極相手を傷つけない、素晴らしい言葉を突発的に言うことができたのだった。

「……Mなの?」
「……多分」

 ……彼が頭を抱え、巨躯を縮めてそう言う。なるほど。そう考えれば全てに合点がいく。乳首を弄られて、パンツごしに触られて、素股で扱かれて……これで満足していたのは全てその性癖のせいだ。そして彼は早漏ではなく、変態なだけだったんだ!
 私は恥ずかしそうにしている彼を見て、彼の理想の彼女になるために頑張ろう、と静かに決意を決めるのだった。さて、明日からドS講座の本を読むとしようか。







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