分かんなかった。ゼンブ。あいつのことも。この世界のことも。あまりに私の故郷と違いすぎて、イカれてるかと思った。まだ慣れてなくてそう思ってるけど。
 現に、私が謎の大男と一緒にマフラーをして、公園のベンチに二人腰掛けてるわけで。
 チビな私に対し、あいつは優に二メートル超。ガタイがいい。見た目はロボットみたいな感じ。人型の。口があって、いっつもニコニコしてる。凄いタラシだよ。いやんなる。あと、人間で言う耳の部分から、だらーんと大量のケーブルやらイヤホンだのが垂れ下がっている。後にこれで私は恥ずかしい思いをするんだけど、それは別のお話。
 まるで恋人じみたようなことをしてるなぁって、自分でも思う。でも……そう。半分そう。でも半分違う。
 意味わかんない。あいつは私のことを恋人だと思ってるけど、私はあいつのことを恋人だなんて思ってない。だからあんなこと思った。恋人どころか、ストーカーとすら思ってる。アパートの隣にいきなり越してきたり、目を覚ましたらあいつが真横で眠ってたりするなんてしょっちゅう。勝手に家のもの漁って料理したり、ああもうやんなる。そういうのがイヤで家飛び出したってのに、ココでも変わんないわけ?私が折れたら負け、なんて思いだすようになって、ああ疲れる。やんなる。

「ねぇ」
「何」

 眉を顰める。きっとすんごい不細工なツラしてる。だって私って不細工でしょ? 元カレに何度も言われたよ。

「スキだよ」
「……」

 あっそ。たんを吐くように言った。あいつは口角上げてVの字。唯一二人を離していた数センチを飛び越えて、私にもたれ掛かる。止めてくれ。気味悪い。アンタみたいなストーカーは嫌いだよ。やけに幼稚っぽくて、クレイジーさを割増してるような奴は特に。

「あのさ」
「なぁに?」
「なんで、なんでウチみたいな芋臭い女についてまわるわけ?」

 バカにするため? お坊ちゃんの高貴な遊びなの? ココの世界ではそういうの流行り?
 びっくりするくらい可愛くない皮肉ばかりが脳裏に浮かんで嫌になる。

 急に顎を片手の指で抑えられた。ごつい。冷たい。こいつ私よりもずっとずっと人間らしーのに、やっぱり人間じゃないんだって確信させられて、切なくなる。

「かわいいから。何もかも」

 ……わけわかんない。なんでそんな笑うの?

「嘘つき」

 きっと真っ赤な頬でそう言った。あいつの力の入ってない指先が力なく離れていく。
 ごめん。嘘ついてたのは私の方だよ。初めにアンタを見た時、すっごくキレイだと思ったし、今だって思ってる。だから馬鹿な私はアンタから目を離せない。

「人間って、心と身体が乖離することがあるんだね」

 洒落たことを言うもんだから、私は逃げ出そうとした。しかしそれは一本のマフラーによって阻止される。

「ほい」

 そんな気の抜けた掛け声と共に、圧迫される私の喉。こいつ、何の躊躇いも無しに私のマフラーを握りやがった。おかげで水をひっかけられた猫みたいにびっくりして、思わずおえっと言ってしまった。
 そんな私を見て、あいつは慌てて私の元へ寄ってくる。そして私は再び囚われの身。
 無愛想な顔をしているだろう私を、あいつはいともたやすく持ち上げ、ベンチに座らせる。そしてマフラーを巻かせると、あいつも座る。そしてこっちへ寄ってくる。さりげなくアピールをしているが、全然さりげなくなくておかしくなる。
 これじゃまるでガキの人形ごっこだ。付き合ってらんねぇ。
 あいつは相も変わらず何かべちゃべちゃと喋っている。私に分かる言葉で。私を心配するような単語ばかりが耳からはいり、脳味噌に溶けていく。
 いやんなる。

「ホラね。今の行動、俺が格好よくて恥ずかしくなっちゃったんでしょ? 俺、ミツバの為に人間の勉強したよ。俺、かっこいいでしょ?」

 極めつけのこの言葉にも、いやんなる。
 一発ぶん殴った。あいつは痛いって言ったけど、私の方が痛いよこの野郎。







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