彼が本性を出したのは放課後だった。ふたりきりの教室で、私は無言で携帯を弄っていいた。するといきなり隣の席に図々しく座ってきた。かと思うと、あいつはこう言ってきた。
「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ」
ああ、もうそんな時期か。じゃあクリスマスも近いね、なんて言ったらぶっ殺されるだろう。
「お菓子もってないよ」
「じゃあイタズラな」
「い、いたずらって」
「さーな」
舌なめずりをするシャチくんに、骨の髄までしゃぶられそうな気がしてぞっとする。申し訳ないが私にマゾの属性はないので、まだ人生を謳歌したいと思っている。貴方と。
「ちゅーでいい」
「いいって、何。妥協?」
「それ以上のことはさせてくれないだろ?」
それにしたら俺が狂うよ、そう言うシャチくんの表情は相変わらずよく分からなかった。
ふと、凛子から三日前くらいにもらった飴のことを思い出した。それは確かに胸ポケットに入っていた。甘い宝石。なんてくさすぎるかな。
「あった、お菓子」
「えっ、準備してたの? ズボラなお前が」
「んなわけないでしょ。凛子から貰ったやつあげるよ」
「はぁ〜〜〜? なんだそれ」