屋上で空でも眺めてぼんやりと考え事をするなんて、私みたいな女がするべきことじゃないよなぁと思う。
 昨日殺された先輩女子高生のことを考えていた。考えずにはいられなかった。血肉やグロテスクなことも当然だけれど、何よりもシャチくんのことだった。
 ――きっと、私のことを食料としか考えていない。その通りだと思った。きっと来るべき日が来たら、私は無残に殺される。そこには愛だとか劣情なんて一切なく、あるのは本能という悲しい性だけ。そう考えると悲しくなった。今まで浮かれていた自分が悲しくて堪らなかった。
 下を見た。怖かった。逃げている兎の女の子が居た。ライオンの男の子が本能むき出しででそれを追いかけていた。どっちもこの学校の学生だ。ばかだなぁ、逃げれば逃げるほど夢中になるのよ、肉食獣っていうのは。
 彼女が血肉になる姿はどうにも想像したくなかったので、私は空に目を移す。ぼんやりと動く雲ですら追いかけっこをしているように見える。ただ速度が違うだけで、世界中は追いかけっこをしているんだそれだけなんだと考えると、ここでそれを止めてしまいたいという衝動に駆られた。
 だって、がちゃりとドアが開く音なんて聞きたくなかった。

「なんで」

 私にならさっきの兎ちゃんの気持ちが分かる。どうしてこうも逃げたくなるのか。

「た、食べるなら私だけって言ったじゃん!」
「食ってない」
「でも、血」
「全部吐いた」

 それを聞いて感動してしまった。私はもう立派なヤンデレ女なのかもしれない。

「すきです」
「食料的な意味でしょ!?」
「言わなきゃわかんねーのかよアホ」
「分かんないよ!」
「あーあー分かりました! 肉よりもすき!」
「なにそれ意味分かんない!」

 迫ってくるシャチくんから逃げようと後ずさっていると、とうとう背中に手すりがついた。そして情けないことに、腰を抜かした。
 屈むシャチくん。私と同じ目線になる。相変わらず無表情なシャチくんの心情は伺えない。でも、きっと真剣な顔をしているに相違ない。

「キスしていい?」
「アンタのキスって、想像つかない」
「骨の髄までしゃぶるってワケじゃねーよ」

 軽く味見するだけだ、ぼそりと耳にそう呟かれたあと私の思考は停止した。



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