死人を見てどう思う。何を口ずさむ。
「あ」という短い啖呵が切られたかと思うと、目の前に映しだされるのは赤。
ああ、彼と私の世界はずぅっと遠いもので、私は大人しく草でも食んでいればいいんだと思った。
血肉を貪る彼を見るのは、まだ慣れない。
「美味しかった?」
とんでもないイカレた言葉を吐く私。顔の筋肉が引き攣っているのが自分でも分かった。
ゆっくりと、彼が振り向く。血塗れになった口周りが露わになる。
「ああ」
「うまかった」
この世界はとんでもなくイカれている。ぼんやりそうは思っても、私はそれをどうすることもできない。
右端に座っている宇佐美ちゃんがしんだ。
「なんで私は食べないの?」
某ハンバーガーチェーン店で、ハンバーガーを食べる私はきっとブタだ。
隣にいるのは肉食獣のシャチくん。
「丸々肥えてから」
「そういう冗談やめてよね」
シェイクを飲み、喉に全てを通すと、私は再びハンバーガーに手をつけ始める。
「ホントデブだなぁ」
うぐっと食べる手を止める。好きな人にそんなことを言われると辛い。しかし、シャチくんにとって、私は太っていたほうがいいんじゃない? 都合的な意味でだけどさ。でもそれって結局私食べられちゃうわけだし、やっぱ女性的に魅力がないって言いたいの?
「シャチくんの餌になるために溜めてんのよ」
がぶっとハンバーガーに噛み付く。シャチくんを見る。私を見ているみたいだけど、やっぱり表情はわからない。
ただ、
「馬鹿だなぁ、俺みたいな凶暴な男はやめておけよ」
と言いながら、私の口角についたソースを手に取りぺろりと舐めるシャチくんに惚れなおしたのは確かだ。