シャチくんは鈍感だ。つーかアホだ。ズレている。私と似ている。そこがすきだ。
だから、そんなシャチくんが人間の先輩から告白されてしまったことは、未だに信じがたいことだ。
「これは」
紛れも無いラブレター。ピンク。ハート。真っ赤っ赤の。
つーか、まだ開けてないじゃん。なぜ、私に。
恋敵じゃん、この先輩。
シャチくんがすっと私にそれを渡してきた。自分で開けろよ。っていうかこのシーンだけ抜粋すると、私がシャチくんが書いたラブレターを受け取ってるみたい。あほらし。
中に書いてある文字を一語一句全て朗読した。書いてあることは甘ったるくて、それこそ文字も便箋も全部糖蜜でしょうがない。げろを吐きそうなくらいに甘い文章をなんとか全て読み終えて、なんだか私が恥ずかしくなってきた。私がシャチくんに告白してるみたいじゃん。あほらし。
しかし、正直表情豊かとはいえないシャチくんは、相変わらず何を考えているのか分からない表情をしていた。あー……これは……と喉を締めたような声を出したあと、こう言った。
「喰っていいって意味か?」
喰う……それはもしや、性的に、下の口を喰ってしまうという、そういう?
脳裏をまっピンクにしたところでシャチくんを見ると、舌なめずりをしていたのでああこれは、そういうことかと理解する。
「あー……そうかも」
適当な返事ができるのは女子の特権、なんて強欲に塗れたことを考えていると、シャチくんが何となしにこう言った。
「まぁ、いいや。どうせ骨ばっかでマズイだろうしな。それに」
「喰うのはお前って決めてるからな」
私を殺すおつもりですか、アナタ。
マジにしてんのかよ、シャチくんがきゅっきゅっきゅっと笑った。笑っている姿は海のギャングそのものだったけれど、笑い声だけは可愛かった。